災害時対策のお話
人間は喉もと過ぎれば熱さを忘れるものだ。新聞やニュースで地震が起こったり、火災が起こったりした報道を聞く度に自らの備えは万全かと心配するのだが、1ヶ月もすれば日常の出来事に忙殺されてすっかり忘れてしまう。
一方、世の中の動きを見てみると、コンピューター・システムの災害への備えは万全であることが熱望されている。例えばJSOX法による企業の内部統制強化などにも代表されるように、法規制の面でも災対は企業の健全な活動を維持する上で重要な要素であると見なされている。法規制があろうがなかろうが、皆さんもご自分の預金が引き出せない状態はあってはならないとお考えであろうし、災害発生時に自分が偶然インターネット経由で買い物をしていた場合などは、その代金の支払いが正確に処理されたのかどうかや、購入品の発送が正確に行われているかどうかは気になるところであろう。
便利な道具から自動販売機へ
企業は何故コンピューターを導入して運用するのだろうか。一言で言うと便利になるからである。しかしその動機は昔と今ではかなり様相が異なる。若い方はあまりご存知ないかもしれないが、昔は銀行に行くとキレイなお姉さんがずらりと並んだカウンターが大きく横たわり、来客の対応に追われていた。当時、コンピューターの導入は窓口業務をすばやく正確にこなすことにつながった。算盤よりもコンピューターのほうが正確に計算でき、且つプリンターによる印字は記入ミスを大きく削減することができるからだ。
つまり、当時コンピューターは事務処理の効率化や迅速化など、主に人間の行う業務を補助する道具として利用されていた。そして沢山の人がいなくても時間内に同じ作業がこなせるようになった。つまりコンピューターを導入すると企業の費用削減、下世話な表現を用いるとお金の節約、つまり「Save Money」につながったのだ。
現在の銀行はカウンターが大きな面積を占めているところは少ない。逆にATMがずらりと並んだ光景を目にすることが多いだろう。窓口が閉まってしまっても、月末になると振込みや送金、お金の引き出しにATMは混雑する。送金などには手数料がかかる。これは銀行業を営む上での利益源泉の1つなのであるが、昔と異なり、ATMの操作自身は預金者が勝手に行っているので、その部分だけで見れば銀行の人手はかかっていない。もちろん銀行は大金を投資してシステムを構築しているので、何もしないで手数料を取っているわけではない。しかし見方を変えると、これは取りも直さずコンピューター・システム全体を自動販売機化していることを意味する。
このような現象は現在の日本にはいたるところに見受けられる。例えば空港に行くとやはりチェックイン・カウンターに人がずらりと並んでいるわけではなく、自動チェックイン・マシンが数多く並んでいる。その操作をしているのは飛行機に乗る人、つまり乗客自身なのだ。インターネットで通信販売を行っているサイトも同じだ。これはコンピューター・システムの本質が人間の作業を軽減化する段階から、企業収入を得る仕組みそのものに変化したことを示している。つまりコンピューターは「Save Money」の機械から「Make Money」の機械へと質的に変貌を遂げているのだ(図12-1)。
災害時対策からビジネスの継続性へ
最近は「災害時対策」とは呼ばずに「ビジネスの継続性(Business Continuity)」という表現が使われることが多い。これは前述したようにコンピューターが「Save Money」の機械から「Make Money」の機械へと質的変貌を遂げたが故に他ならない。つまり現代の企業においてコンピューターが止まるということは、即ち企業の収益活動そのものが停止することを意味することになる。自動販売機が故障すれば売り上げが得られないという理屈は、どなたもお分かりになるだろう。つまりビジネスの継続性に対するソリューションとは企業の存続に対する危機管理の問題であるとも言えるのだ。(図12-2)