今回は、生理用ナプキンが買えずにナプキン使用率が10%を切っていたインドの女性のために、低価格の生理用ナプキンを作る機械を発明した「グラスルーツ・イノベーター」アルナシャラム・ムルガナンサムさんが実際に行ったソーシャルイノベーションを紹介します。この事例を通じて、「革新的な発想を阻む本当の原因は何か?」「その原因を除去して新しい発想を生み出すために必要なものは何か?」について考えていきます。

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新しいことを始めるのであれば、「白紙」から始めよう
先日、アルナシャラム・ムルガナンサムさんというインドの「グラスルーツ・イノベーター」(草の根レベルの発明家)が来日して行なった講演を聞きに行きました。
ムルガナンサムさんは、大手メーカーが販売している生理用ナプキンが高くて買えずにいるインドの女性たちのために、低価格の生理用ナプキンを作る機械を発明した発明家です。
ムルガナンサムさんの発明以前にはインドの女性でナプキンを使用している人は10%以下だったそうです。それまで農村部に住む女性たちはボロ布をナプキンの代用品として使っていました。しかし、ボロ布ではやはり代用品としては問題があり、仕事や学習の面で支障があったといいます。
ナプキンの代わりにボロ布を手にする奥さんを前にしたときにその状況を知り、そこから開発をはじめて6年間、試行錯誤を行なったうえで生理用ナプキンの製造機を作り上げました。
ムルガナンサムさんの活動が革新的だったのは、単に自分が発明した機械を使って作ったナプキンを安価で売るビジネスにはせず、女性たち自身がその機械を使ってナプキンを作り、まわりの人たちに安価で売るというしくみも同時に生み出した点です。
そのしくみは女性たちのナプキン使用率を高めただけでなく、農村地域の女性たちの雇用を創出し、さらには女性たちの子どもに教育の機会を与えるといったイノベーションを実現したのです。
そんなムルガナンサムさんがこんなことを言っていました。
「新しいことを始めるのであれば、白紙から始めよう」
そして、
「新しいことを始める際には、外から何かを学ぼうとするよりも、まず自分の持っているものを捨てよう」
とも。
開発をはじめようと考えたときには生理用ナプキンに触れたこともなかったムルガナンサムさんにとって、生理用ナプキンの製造機の開発はまさに白紙からのスタートでした。
どういう繊維のコットンで作ったナプキンなら実用に耐えるかを見出すのに2年以上かかります。そのコットンを作るためには大手メーカーが使っているような1台数百万をする機械が必要だとわかり唖然としつつも、そこであきらめずに機械自体を自分でトライ&エラーを繰り返しながら、開発開始から6年かけてムルガナンサムさんはナプキン製造機を作り上げました。
その過程においては「できるはずがない」という自分自身やまわりの人間の常識から、自分をいかに自由にして様々な発想を試せるかということこそがとても大事なことだったはずです。
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棚橋弘季(タナハシヒロキ)
棚橋弘季(たなはしひろき) 株式会社ロフトワーク所属。イノベーションメーカー。デザイン思考やコ・デザイン、リーン・スタートアップなどの手法を用いてクライアント企業のイノベーション創出の支援を行う。ブログ「DESIGN IT! w/LOVE」。著書に『デザイン思考の仕事術』 など。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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