イノベーションの機会を発見する作業のむずかしさ
前回の記事では、新しい発想を生みだそうとする際、何より障害として立ちはだかるのは他でもない「自分たちの常識や思い込み」であるとしました。その思い込みから抜け出し自由な発想をできるようにするためには、自分たちとは異なる人たちの暮らしや仕事の現場に接する「エスノグラフィー」などのリサーチを通じて、問題自体をこれまでにない新しいものとして定義しなおす作業をデザイン思考のアプローチでは行っていることを紹介しました。
ユーザーリサーチの結果から得られた様々なストーリーを、具体的な問題解決の戦略へと変換していくためには、まず、リサーチデータをもとに問題を新しく定義しなおし、イノベーションの機会を見いだす作業が必要になります。データを編集的な視点で統合する作業をグループワークとして行うことを通じて、調査で見たことや聞いたことに新たな意味付けを行い、“隠れたイノベーションの機会”を見出すのです。
自分たちの常識や思い込みの外に出るためには、単純にエスノグラフィーをすればよいというわけではなく、「リサーチ+編集・統合による機会の発見」が1つのセットと考えて実施することが大事なのです。
けれど、このイノベーションの機会を発見する作業はとても大事な作業であると同時に、実際のプロジェクトでは多くの人が最も苦労する作業であったりしもします。
リサーチで収集した情報をさまざまな角度から編集しなおすことで、隠れたイノベーションの機会を見つけていくのですが、その作業がそれまでのエスノグラフィーや、デザイン思考で使うブレインストーミングやプロトタイピングなどの手法に比べても、圧倒的に抽象度の高い作業であり、難しいという印象を受けて苦労する人が多いようです。
私が参加させていただくプロジェクトでも、このプロセスが最も苦労する場面の1つですが、とにかく有効な機会を見いだせなければ先に進む意味がありませんので、何度かセッションを重ねてでもこの難関を突破していきます。
難しく感じてしまう理由の1つは、そもそも質的なリサーチデータを扱う方法そのものを知らなかったり、慣れていなかったりすることでしょう。
質的なデータを、編集的に統合しながらイノベーションの機会を定義する手法はいくつかあります。
代表的なものとしては、
- KJ法
- カスタマージャーニーマッピング
- インサイト抽出〜テーマ発見〜機会の創造
などが使われます。
どの手法を選ぶかは、プロジェクトがチャレンジしているデザイン課題によっても異なりますし、どのようなリサーチデータが得られたかによっても異なります。その都度、適切な手法を使って作業が行えるようにするためには、いくつかの手法に習熟しておいたほうがよいのは間違いありません。
では、上に挙げた3つの手法について、どんなメリット/デメリットがあり、どんな場面に使えそうかをイメージしてもらえるよう、それぞれ簡単に紹介していきます。