「ロット単位などから、今後は個体単位で情報が見られるようになることが求められています。」
オムロン株式会社 コントロール事業部 副事業部長 横見光氏は、品質に関する法規制の強化、消費者の生産物責任に対する意識の変化などもあり、製造行における個々の製品の品質管理環境が大きく変化してきていると言う。リコール件数なども増え、企業はラインやロット単位ではなく、製品1つ1つの品質管理を適切に行わなければならないのだ。
「個体の品質管理は、いま大きくクローズアップされています」と横見氏。当然ながら、個体レベルまで管理しようとすれば、扱うデータは膨大になる。製造装置などでは、これまでも個々の製品の製造ログのようなデータは蓄積してきた。しかし、それを生産管理システム、さらには市場データを扱うシステムと連携させるところまでは、なかなか踏み込んでこなかったのが現実だろう。それらを進めなければ、個体レベルの品質管理を行い、リスクを回避し効率化することはままならない。
これらの課題を解決するために、今回オムロンはMicrosoftとの協業を行った。従来提供してきた、制御機器を連携させ生産機械のIOなどをコントロールできるマシンオートメーションコントローラ「Sysmac NJシリーズ」に、新たにMicrosoft SQL Serverと直接連携するソフトウェア機能を追加したのだ。これにより、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)などに蓄積されている情報を、リアルタイムにSQL Serverに渡し、分析などが行えるようになる。
現状の製造現場では、MESなどで発生するデータを一旦PCサーバーなどに収集し、それをバッチ処理などで生産管理システムなどに渡し利用することはできている。これでは、1日前、あるいは数時間前の生産の状況は分析できるが、いまどのようなことが起きているかは把握できない。今回のようにSysmacから直接SQL Serverにリアルタイムに接続する仕組みは、少なくとも国内では始めての試みとなる。データ転送の速度は、最高で20ms。Sysmacの中でデータを処理し、SQLの形でSQL Serverにデータを渡す。この高速な転送機能により、大量データの確実な連携を担保している。
今回、オムロンが協業先としてMicrosoftを選択したのは、MicrosoftのWindowsや各種クライアントツールがデファクトスタンダードだからだと横見氏は言う。製造現場のエンジニアは、日々生産現場の改善に取り組んではいるが、ITシステムを使いこなすことに長けているわけではない。彼らに全く新しい大きなシステムを使ってもらうのは敷居が高いので、使い慣れたMicrosoft Officeなどを活用できるMicrosoftと組むことにした。このことは、オムロンにとってはもちろん、ユーザーにも大きなメリットになるはずだと言う。
Microsoftにはとって今回の協業は、現状のテーマである「ワークスタイルの変革」の1つだと、日本マイクロソフト インダストリーパートナー営業統括本部 インダストリーソリューション本部 本部長の濱口猛智氏は言う。「高品質な見える化を行い、製造業の現場力の活性化を目指します」とのこと。製造現場から収集したビッグデータの活用に、Microsoft Officeの機能を最大限に使ってもらう。これがMicrosoftの強みでもあると濱口氏。
今回の協業の範囲はデータ連携部分まであり、さらにその先の高度なビッグデータの分析などは、ユーザーがSQL ServerやExcelなどの機能を活用して自ら行うか、別途それを支援する企業なりにサポートしてもらうことになる。とはいえ、生産現場の詳細なデータをリアルタイムに収集できるので、たんなるデータ分析結果のレポートを行うだけでなく、なんらかの製造ライン、治具などの異変をリアルタイムに察知し、自動ですぐに生産現場にいる技術者のスマートフォンなどにアラートをするといった仕組みも容易に構築できるだろう。そのアラートから、現場担当者が使い慣れたExcelを用い、異変の原因を探り迅速に対策を施す。さらには、アラートから自動で製造ラインをコントロールするといったストーリーも容易に想像ができる。
MESデータのようなビッグデータ活用は、製造業に強みをもつ日本こそが、積極的に取り組むべき領域であろう。今回のようなオムロンとMicrosoftの協業で、製造現場でのビッグデータ活用が、今後さらに大きな広がりをみせるきっかけとなりそうだ。