サンタクロースは“心をつたって”入ってくる?
「サンタクロースが煙突から入ってくると思っている人は誤解している。本当は心をつたって入って来るんだよ。」(ポール・M・エル)
顧客に接し、価値を届けるためのチャネル(煙突)はもちろん重要ですが、顧客とさらなる良い関係を維持していくために必要とされるものがあります。それが、今回のテーマである「顧客リレーションシップ」です。「チャネル」が顧客との物理的な接点だとすれば、「顧客リレーションシップ」は、精神的な繋がりといえるでしょう。
今回の論点を整理しておきましょう(図1)。
「マーケットシェア」よりも「顧客の財布シェア」
最初に、顧客リレーションシップとその属性を定義しておきます(図2)。
顧客をマーケティングの中心に置くという考えが浸透してきたのは1990年代のことで、それ以前はプロダクトを中心としたマーケティングの時代でした。顧客リレーションシップは、顧客を中心とするマーケティング活動の中核的な概念で、顧客を重要な企業資産(顧客エクイティ)として扱います。
「プロダクトを中心とするマーケティング」が、プロダクトライフサイクルとプロダクトラインからの利益を最大化することを求められるのと同様に、「顧客を中心とするマーケティング」は顧客ライフサイクル(図3)とターゲット顧客の価値を最大化することを狙いとします。
企業資産としての顧客エクイティを最大化するためには、新規顧客をリピート購買してもらえるコア顧客に育て上げ、コア顧客となってくれている期間を少しでも長く維持することが重要です。つまり、ターゲット顧客を中心に据えたマーケティング活動においては、「マーケットシェア拡大」よりも「顧客の財布シェア拡大」により大きな焦点を当てることになります。
顧客リレーションシップの属性である顧客エクイティは、顧客獲得、顧客維持、追加販売という3つのステージから構成され(図4)、これらに関するマーケティング活動のバランスを適切に管理していくことが「顧客生涯価値(特定顧客との取引を通じて生み出される利益総額の現在価値)」の最大化」に結び付きます。
顧客エクイティの3つのステージでバランスを図ることは、頭で理解していてもビジネスの実践においては簡単なものではありません。実際に、ほとんどの企業がマーケティング予算の多くを新規顧客の獲得に割当てています。マーケティングの大家であるコトラー教授は、顧客獲得重視の企業ほど離脱顧客が多く、さらなる顧客獲得のために資金を投ずるという悪循環に陥る、と警告しています。
ここで、顧客エクイティをストックとフローの視点から捉えてみましょう(図5)。
新規顧客獲得に多大な予算と労力を傾け、顧客維持を軽視する企業は、排水溝を開けたままの状態で蛇口から大量のお湯を注いでいるようなものです。顧客ニーズが多様化、競争環境が激化している現代において、新規顧客獲得のコストは年々上昇しています。多くのコストと労力をかけて獲得したターゲット顧客は、コア顧客へと大事に育てていかなければなりません。
さて、冒頭に顧客リレーションシップとは、ターゲット顧客との精神的なつながりであると申し上げましたが、それは実際にどのような働きをしているのでしょうか?