いかに「共感」できるか-相手の視点でその経験や現象に歩み寄る
現場調査でインサイトを獲得することが、イノベーションの「機会発見」につながる。しかし、インサイトは非明示的であるため、ユーザーの行動や発言・気持ちや考えから大胆に推測する必要がある。推測のための材料を沢山集めるには、前回の記事で紹介した観察とは別に「インタビュー」を行うことが望ましい。
インタビューの際に重要なことは、「相手に共感すること」だ。共感が大切な理由は、相手の深いニーズに近づくきっかけとなるからだ。観察の段階では、客観的事実を把握することが重要だった。一方、共感段階では「相手はどんなことを感じているのか」といった感情的側面の理解へより重きが置かれるようになる。
アダム・スミスは共感を、「想像の中で、苦しんでいる人の立場に身を置くこと」と定義している。相手が抱えている悩みや、その悩みから生まれる不安や痛みに寄り添うことで、本当の共感が生まれる。
共感と似たような感情には「同情」がある。同情と共感の違いは「能動性」だ。英単語だけでもその違いがわかる。同情はsympathize、共感はempathizeであり、「-pathize」は感情を意味する。単語の頭につくsymは「シンクロ」を意味し、emは「中に入ること」を意味する。
たとえば、友人が財布を失くしたとする。自分にも同様に財布を失くした経験があれば「それは大変だね。私も最近財布をなくしたことがある。預金カードやクレジットカードの停止手続きなど、色々と大変だった」と感じる。これは同情であり、自分の経験や考えをベースに相手の気持ちを察している。預金カードやクレジットカードの停止手続きなど、色々と大変だった」と感じる。これは、自分の経験や考えをベースに相手の気持ちを察している。「自分の経験と相手の経験を同一視」している。
一方の共感は、自分の経験を一旦脇に置いて、相手の立場になりその苦しみを理解しようとする。仮に自分が財布を失くした経験がないとしても「この人は凄く困っている。どうやらその財布は大切な人からのプレゼントだったようだ。どれだけ残念なことだろう」と、あくまで「相手の視点でその経験や現象に歩み寄る」ことをしている。
「同情」は自分が経験していないことについては、何も感じることができない。受動的に相手の状況を自分の状況と無意識に照らし合わせるだけだ。「共感」は能動的に相手の状況や立場を考え、その人の気持ちについて知ろうとする。
同情ではなく「共感」の視点でインタビューを行うことで、アンケート用紙に回答してもらうだけでは知ることのできない葛藤や不安といった点において、細やかな情報を得ることができる。