イノベーションの取組みが失敗する理由から「10の型」を導き出す
メインの著者であるLarry Keeley氏は、「イノベーションの取り組みの多くが失敗する理由」を探ることに長年取り組んできました。1981年にはインダストリアル・デザイナーである故Jay Doblinと共にDoblinというイノベーションコンサルティングファームを設立しています。その後、DoblinがMonitor Deloitteに買収された後は、同社のディレクターを務めている他、さまざまな大学、デザインスクールなどで教鞭を執っているそうです。
Doblinにおいて本書の原型とも言えるイノベーションを実現する方法の体系化に取り組み、1998年にそれを10の型にまとめています。この10の型はハーバードビジネスレビューをはじめ、さまざまなメディア等で発表をしながら改良を重ね、2013年4月に本書を出版しています。
そもそもイノベーションとは?
本書のテーマでもある「イノベーション」とは何でしょうか。イノベーションという言葉は、その実現の難しさとは反比例して、今ではすっかり陳腐化してしまっている感じもあり、さまざま文脈で使われていますが、この本では冒頭で次の2つの定義を紹介しています。
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イノベーションとは、実現可能な新しい提供物を生み出すことである
(Innovation is the creation of a viable new offering.) -
イノベーションを興すためには、重要な問題を特定し、的確な解決策によって、その問題を体系的に解決しなくてはならない
(Innovating requires identifying the problems that matter and moving through them systematically to deliver elegant solutions.)
まずは、1つ目の定義に注目してみましょう。このなかで注目すべきポイントはいくつかありますが、特に「実現可能」という部分と「提供物」という部分が重要です。「実現可能」というのは、企業にとって実現性があるという意味です。つまり、「発明(invention)ではなく、企業が事業を維持していくために必要な現実的なもの」でなければならないことを意味しています。
もうひとつの「提供物」という訳語は少し違和感があるかもしれませんが、英語では「offering」という単語が使われています。ここであえて「product(製品・商品)」という用語を使っていないのは、イノベーションを製品だけで実現するのは、もはや困難だという著者らの問題意識に由来します。
製品単体のイノベーションとは、さまざまな技術を組み合わせた新製品という形で実現されることが一般的です。ただし、新製品発売後、「iSuppli」などによって分解され、部品の構成やコストの予測などが簡単に出回ってしまうことなどからも明らかなように、どれだけ優れた技術を使っていても、製品単体のイノベーションで優位を維持できる期間はどんどん短くなっているという現状があります。