創造性はもはや才能ではない
最近、日本でもバズワードになりつつある「デザイン思考」という言葉。そして、「デザインとか、クリエイティビティって広告とか作っているクリエーターのものでしょ?僕はクリエイティブなタイプの人間じゃないし」という意見。同様に思っていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。
アメリカの一流デザインファームIDEOの創業者デビット、トムの兄弟は、
「デザイン思考とは、組織を習慣的に革新していくための方法論です。しかし、その背景にある一番大事なもの。それは、一人一人が、自身の持つ創造力を信じれている状態にあることです」
といいます。そして、
「創造性を発揮する方法は、教えることが可能であり、そして、安定して再現性のある成果を発揮する方法論です。ビジネスマンも、弁護士も、政策立案をする官僚も、NPOの職員も、いわゆるクリエーターと呼ばれる人たちでなくても、誰にでも使えるものなのです」
ともいいます。
私は、去年8月から今年の春まで、アメリカのイリノイ工科大学のデザインの大学院に留学していました。絵を学びに言ったのではなく、「デザイン思考」と呼ばれている創造やイノベーションの方法論を教えるとてもユニークな大学院です。大学時代は法律を専攻、仕事でもデータ分析をベースにしたマーケティングをしていた、いわゆるバリバリの左脳的なビジネス世界の人間でした。「クリエーターなる人種」は、自分とはほど遠い存在と思っていました。いわゆる、「クリエータータイプではない人間」だったわけです。
しかし、32歳になった去年一年間アメリカのデザインスクールで見たのは、エンジニア、ビジネス、NPOなどデザインのようなクリエイティブな世界とはほど遠い背景を持つ友人たちも、かなりの数、存在し、自分の描く世界を実現するするための方法論をデザイナー達に混じって学んでいるというお話でした。
僕らが、デザイナー出身の学生と一緒に1年間ユーザー観察にお宅訪問にいったり、ホワイトボードの前の膨大なポストイットに苦悩したり、何度も失敗してスケッチブックを破り、アドビのイラストレーターと格闘しながら学んだこと、それは、「創造力って特別なことじゃない。自分でも学べるし、発揮することは出来る。そして、そのための明確な方法論も存在している」ということでした。
実は『発想する会社』でも有名な弟のトム・ケリーは、元々デザイナーではありません。デザイナーだった兄のデビッドを手伝っていた元会計士で、MBAで勉強していた時に兄が起業したIDEOの前身となる会社に引っ張られて参加したのです。『発想する会社』の著書で有名な、あの「クリエイティブな」印象を持たれているトム・ケリーですら、社会人のキャリアはビジネスの世界から始まっています。