アンドリュー・ゾッリのレジリエンスのコンセプト定義
この本ではレジリエンスを
システム、企業、個人が極度の状況変化に直面したときに、基本的な目的と健全性を維持する力
と定義しています。
その上で、いくつかの指摘によりレジリエンスのコンセプトを明確にしています。
一つ目の指摘は「頑強性との違い」です。頑強性はある意味でしなやかさの対極にある強さの概念ですが、興味深い点として、頑強性は長所の強化によって得られるもので、崩壊したときに自力で元に戻ることができないとしていることです。たとえば、今後も何千年と存在し続けるだろうピラミッドは頑強ではあるが、レジリエントではないと言います。
二つ目の指摘は「冗長性との違い」です。レジリエントなシステムは冗長であることが多いものの、冗長性は平常時には効率の阻害要因となり、さらに状況が大きく変わると有効性を失う可能性をはらんでいると指摘しています。その意味で冗長性があることは平時には健全ではなく、レジリエンスとは異なると指摘しています。
さらに、本質的な指摘が「レジリエンスは元の状態への回復を意味しない」という指摘です。レジリエンスというと「元に戻すこと=復元」だと考えてしまいがちです。現に土木のように構造物が破損したときにベースラインまで回復することがレジリエンスだと考える分野もあります。しかし、ベースライン自体が存在しないようなレジリエンスがあり、定義にあるように、目的と健全性を維持することがレジリエンスだと考えています。この限りにおいて、元に戻るだけではなく、より高いレベルに戻る(成長する)というケースも考えられます。
失敗とレジリエンス
これらに加えて、失敗との関係について
レジリエンスの多くはシステムを開放し、資源の一部を再構築するために「一定の頻度で適度な」失敗を必要とする
と指摘しています。
本書では森林の例を取り上げています。森林には耐火性樹木と非耐火性樹木があります。小規模な火災(失敗)は、耐火性樹木が非耐火性樹木に駆逐されないようにし、システム内の栄養を再配分し、森林を成長させるために不可欠なものだそうです。そこに人間が介入して火災を消火してしまうと、非耐火性の樹木がはびこり、大規模火災が起こり、森林が崩壊するリスクが大きくなります。
モノでも人でも、ストレスを溜めすぎると折れてしまいます。失敗をしないように取り繕っていると、歪(ひずみ)が生じていつか大きな失敗をする可能性があります。レジリエントであるには適度な失敗をして、やり方を調整することが必要だということです。この指摘も極めて重要です。
本書では、このようにレジリエンスのコンセプトを定義した上で、「システム」、「人」、「コミュニティ」のそれぞれの領域でのレジリエンス構築の事例を、類似点や関連性を示しながら説明し、レジリエンスのパターンを明らかにしています。