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漏洩が問題なのではない、名寄せが問題なのである―第3回プライバシーフリーク・カフェ(前編)


そもそも名簿を売ることが侵害

山本 ではこの辺で、ぜひ高木先生のご意見を…。

高木 今の話は、犯罪の観点からでした。個人情報を内部で盗み出して売るところが不正競争防止法違反で犯罪だと、個人情報というか営業秘密が不正に使われるのが問題だっていうロジックですよねえ。もう一つ前の話は、ダイレクトメールがウザいっていう話でした。その2点ばっかり注目されるけども、もっと肝心なことは、個人についてその人がどういう人だってことが勝手に分析されていること。分析された情報が他へ売られることが問題なんじゃないの?と。

山本 や、それも、もちろん。

高木 それがプライバシーの問題であるわけで。名簿屋がそういうのを販売してれば、プライバシー権侵害だって訴えたら勝てるんじゃないですか?どうですか?

鈴木 ええと、勝てる…んじゃないですかね。まあ、過去の判例って過去の事案に基づく裁判所の判断ですから、特定個人が識別されたものが、問題になってたんですよね。で、これから起きてくるのは、IDだけど履歴情報とかっていうのがどんどん入ってきますから…

高木 いや、特定個人が識別されなければ侵害じゃないってことでいいのかという話をされようとしてますが、その論点もあるんですけど、今はその話ではなくて、特定個人が識別された名簿の販売の話です。氏名や住所の4情報だけ売られている場合は、勝てないように思えるのですが、そうじゃなくて、「夢見る老人リスト」とかですね

鈴木 カモリストですね。

高木 「アダルトグッズの購入者リスト」っていうタイトルの名簿が売られているわけであって、それに載ってる人達は、訴えたら勝てるんじゃないですか?

鈴木 勝てるでしょうね。

高木 なぜだれも訴えないんですか?

鈴木 それはたぶん訴訟経済的な話で、たぶん損害賠償の額が、5000円から10万円、よくて30万円という話しでしょう…

山本 TBCで3万5000円ですからね。

鈴木 そう。スリーサイズとか身体の特徴が入っている上に、ウエストを何センチと太ももを何センチ細くしたいとかそういうコンプレックスに関わるような情報が入っても、3万5000円。

高木 あの2007年の東京地裁は漏れたことに対しての責任を問われているわけですよね。

山本 まさにそうです。

高木 信頼して情報を入力画面に書き込んだのに、記録ファイルが丸見えになっていて漏れちゃいました。という事案だったので。

山本 はい。

高木 それとは別に、同様の情報を名簿屋が売っている。取得の手段は別として、売っていること自体についてのプライバシー権侵害訴訟はどうですか?

鈴木 誰が見ても流通してはならない情報を販売するってことについては、不法行為責任を問いうるでしょうけどね。でも、50万円くらいの訴訟費用かけて、10万円に満たない額を取りに行くような感じでしょう。これが今後、集合訴訟にでも乗ってくれば、別の展開も期待できますが、現状のままでは、とても時間と費用をかけてやろうとは思わないでしょうね。ふつうの人は泣き寝入りするんじゃないですか。それゆえに、個人情報保護法がね、行政規制という形で必要だったということなんじゃないのかなと…。

高木 未然に防止するために。

鈴木 それから、違反している事実を主務大臣に告げれば、違反事業者に対して行政指導や行政処分をしてくれるかもしれないという期待があるということですかね。

山本 ただその、集合訴訟っていうのは、仮にここでデータブローカーみたいなものが日本でやらかして、集団訴訟みたいなものが出ましたっていったときには、やはり、TBCの3万5千円っていう金額じゃ済まなくなる可能性もあります。あの、今回、名簿屋のところで何がどこまで出たのか、実際のところよくわからないんですけども、ほかと組み合わさってこういう人たちのこういう情報がでました、なんでお前持ってるの?ってなるんですよね。ある特定の車種を持っているランク以上の資産を持っているであろう人たちにだけ、ベネッセの情報に基づいた不審な情報が出たんじゃないかって言われているものについては、明らかに他の個人情報との間で名寄せが行われています。そうなってくると、3万5000円じゃ済まないんじゃないか。

高木 名簿屋のサイトの説明を見ると、「個人情報保護法に従ってちゃんとやっています」って書いてあるところに、「売った先にも取扱いに注意するようにお願いしています」などといったことが書いてあって、要するに売った先にプライバシーを侵害しないように言っているというのですけども。

山本 はい。表に出て営業している名簿屋さんもみんな書いてますね。

高木 だけど、売ること自体が侵害じゃないの?

山本 まずいですよね。

高木 …ってことを、まず判例一つ作らないと、話が始まらないんじゃないですかと。それで、なぜ誰も訴えないかというと、自分が入っているとは誰も思ってませんから。

鈴木 ええ。

高木 みんな知らないわけですよ。知らないから訴えようがないですよね。そこを解決するのが事前の行政規制の目的だと思うんですよ。

山本 おっしゃる通りでございます。で、それ、たぶん勇者がいるんだと思って。

高木 …?

山本 ルビコン川を渡って揺るがない男が必要だっていう話だと思うんですよ。

鈴木 はい。あと、ファンドも必要ですよね。

山本 ええ。

鈴木 戦うためにはそれを支える活動資金は必要なので。

山本 金は必要ですよね。

高木 それで、この大綱の記述も、最初の事務局案では、ここの「詐欺等の犯罪行為に利用されている」と、「不適切な勧誘等による消費者被害を助長する」っていうダイレクトメールのことだけを挙げていて、後ろの「及びプライバシー侵害につながり得る…」ってとこは書いてなかった。

パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/info/h260625_siryou2.pdf

山本 はい。

高木 書いてなかったのを、委員が、鈴木先生もですよね?

鈴木 ええ。忘れましたが。

高木 消費者団体の委員が何度も指摘をされて、やっとそれが入ったという状況なんですよ。

鈴木 意見書で主張されたのは消費者団体ですね。

高木 なんでわからないの?って思うわけですよ。まずそこでしょ?と。

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 裏逐に書かれていた理念はどこへ消えた

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この記事の著者

プライバシーフリークの会(プライバシーフリークノカイ)

山本一郎
イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社 代表取締役 高木浩光
独立行政法人産業技術総合研究所 主任研究員 鈴木正朝
新潟大学 法学部 教授

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://enterprisezine.jp/article/detail/6239 2015/02/17 14:54

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