理想と現実のギャップ
たいていの企業では、ERP導入は全社一大プロジェクトとなります。通常、基幹システムのリプレースは10年に一度ということが多く、その導入には気合いが入るものです。しかし、ときどき気合いが入り過ぎて理想と現実のギャップが埋まらず、これが原因でERP導入がストップすることがあります。
ERPが持つ豊富な機能や優れた事例に魅せられた経営者や現場、情報システム部門があるべき姿をERPに求めた結果、自社の現状課題や矛盾点を軽視して、結果として動かないシステムを作ってしまうというものです。
こうしたケースは、ERP導入を契機として全社レベルで業務改革を実現したいという経営層の熱い思いと、日々矛盾を感じながらも黙々と業務を遂行する現場の認識のズレがその原因となることが多いようです。
ERP導入目的はどこまで理想を目指せるのか?
初めてERP導入を検討する多くの企業経営者にとって、ERPパッケージが持つ豊富な機能と優れた導入事例は大変魅力的に映ります。特にその導入事例に業界のリーダー企業や、目標とする先達経営者が率いる企業があればなおさらです。
ベンダーの巧みなプレゼンテーションや、ソリューションの活用ポイントなどの説明をうけると、つい自社にこのERPパッケージを導入すれば同様の成果が得られるのではないかと期待してしまいます。
この考え方は間違いではないのですが、正しいとも言えないのです。なぜならば同じ業界といえどもそれぞれ企業が置かれているビジネス環境や企業の文化・背景、そしてそこで働く従業員が異なるからです。
経験豊富なコンサルタントならば良く理解していることですが、同じ業界でも全く同じERPシステムをそのまま導入することはありません。テンプレート(ひな形)を使ったERP導入でも、仕組みが同じだとしても使い方に各社各様のこだわりや特徴が出てきます。
販売管理やアフターサービスなどのお客様との接点に係るところは、財務会計や在庫管理といった領域に比べると、得意先や商習慣によって大きく違いが出てくる箇所です。
こうした領域に紋切り型にERPパッケージに業務を合わせてしまうと、ERPによる標準化がアダとなって業務に支障をきたすことがあります。つまり、大変魅力的に見える販売管理や顧客管理の機能も自社の現状を踏まえて導入しなければ、逆効果になってしまうことがあるのです。
多くのERPの販売管理機能は、確定受注から請求、回収までを一元的に集中管理することには優れているのですが、見積り作成から受注といった受注前工程や、販売後のアフターサービスやサポートサービスといった製品出荷後工程などのCRMとの接点や境目の部分に齟齬が出やすいようです。
特に流通・卸売・商社といった業態では複数の取引が存在するため、標準化を前提としたERPの販売管理機能では大きなギャップが出てしまうことがよくあります。