ERPマイグレーションのベストシナリオ
福岡博重氏は、石川播磨重工業で設計、プロジェクト管理などを担当し、DB大手サイベースの立ち上げに関わるなどのキャリアを有している。 福岡氏が最初に指摘したのは、ビジネス変化の今の状況とITインフラへの投資のアンマッチングだ。 企業ITの場合、大体、ソフトウェアのバージョンアップなど、大きな作りこみは3〜5年でやるが、インフラを変えるのは5年から10年かかる。経営者はIT投資、IT部門に対してかなり厳しい見方をしている。ビジネスの変化にIT部門は対応できていないというわけだ。
またERPに関しては「カスタマイズしすぎて変化に追従できない」、「投資効果が出ていない」などの苦情が発生しているのが現状だ。移行したいと思ってもあまりの課題の多さに二の足を踏む企業が多い。 基本的には、業務の見直しとERPの導入は同時にやることが重要だと、氏は強調する。
ERPマイグレーションをおこなう時に考えるべきこと
福岡氏は、マイグレーションをきっかけに意識すべきは2つあると言う。 一つは時間軸-- 短期導入だ。製造の所要時間をリードタイムと言うが、単にモノを作る時間だと誤解されている。実際は作るところから、検査やまとめのプロセスを短縮するための仕組みがERPであり、ERPのそうした機能を多くの会社が殺しているのだという。
「たとえば在庫にしても、滞留時間をとるようにしていれば、自動的に不良在庫などを処分するようになり、時間軸が短くなる。リードタイムを短くすると、在庫が自然に減り、キャッシュフローが好転します」
次に、空間軸である。たとえば海外に別のERPが入っていたとしても、共通で使える仕組みを入れることだという。 たとえばSAPの会計システムとSFDCなどのクラウドのCRM、生産管理はインフォアを使いたいといった要望が結構ある。その場合、共通基盤を作り、共通の画面で複数のシステムをシングルサインオンで利用するべきである。
ここで福岡氏が示した統合基盤導入アーキテクチャーの例では、本部の既存ERPに、違うERP、会計システムを持つ各国の販社を繋いだものだ。国ごとに当然、価格、通貨、換算レートが違うから、異なった仕組みにまたがる共通業務プロセスを定義した。 以前は各国の月次報告データをExcelシートで送ってもらい、売上、在庫、受注状況などを集計していた。各国の違いを吸収するコネクターをつけて、一部分をWebサービス化することで、集計データを実在庫、入庫予定、引当と入庫在庫、積層在庫など即座に見られるような形に持っていった。
「業務改革をせずにERPを移行しても入れても、何も変わりません。それも一挙にやるのではなく、それぞれの会社、業務に最適なものということで、業務改革もしながら、複数の違うアプリケーション間をシームレスに繋ぐことができれば、業務的なシナリオとしても理想的な状態になってきます」(福岡氏)
新時代に向けたインフォアの業務システム基盤
RFP(提案依頼書)の総和を見ると、企業がシステム化を検討するための問題が見えてくる。インフォアジャパンの金原進雄氏は、現状の課題は「部分最適化されたシステムの分断と運用コストの増大」と見ている。基幹システムの構築から10年という単位で時間が過ぎて、Excel、Accessその他の、サブシステムが膨大に出来てしまう。さらに業容の拡大、マーケットからの圧力、法規制、海外展開などと連動して、徐々に例外的なシステムが増えている。 さらに、現在の多くの企業のIT部門は、それ以前の担当が作った仕組みをずっと運用してきた立場にあり、業務プロセスと結びつけて情報システムを構築していくための経験が不足している。
たとえば、原価管理についての例では、経営層から「経営に寄与する会計システムに改善せよ」と極めて抽象的なお題が与えられるケースが多い。そこで困ってコンサルティング会社などに相談に行くと、「これからはスループット会計」と言われさらに、原価企画、活動基準原価、部門別会計、グローバル・コストシミュレーションなどと極めてハードルが高い理想像が提示される。そこで、IT部門は悩むことになる。
重要なのは、生産基本情報の把握だ。歩留まりをなるべく100%に近づける。そのためには、製品の生産リードタイムを標準化し、手順も標準化する。 原価計算のテクニックから言うと大体、配賦計算中心になっている。しかしそれでは、月が締まらないと実際の原価が分からない。電気、ガス代、人員給与などがあるからだ。それではサイクルとしては全然遅いのだ。
「一番典型的な例は人件費ですが、特に日本の場合、人件費は固定費。したがって、月次で配賦計算でいいと思ってしまいますが、それぞれの製品あたりの評価金額を正確に算定しないと、いわゆる直接原価計算上で言う埋没コストや、限界利益が分かりません。少しでも見誤ってしまうと、非常に危険です。実際、一つ一つのアクティビティを捉えて、それを会計情報に変換する仕掛けがないと理想のシステムは実現できないということです」(金原氏)
インフォアによる製造現場のシステム化のメリット
ただ実際にERPを導入していくと、問題点もある。金原氏が導入した顧客からよく言われたのは「現場の人はモノを作って忙しいのに、文章や数値を入力しろといって、仕事を増やしてもらっては困る」という苦情だという。その部分をどう解決するのか。そこで、インフォアではMES(製造実行システム)の仕組みをERPに実装し、一体の製品として提供した。
多くの製造現場では、製造業務管理は紙ベースで行われている。そこに、インフォアのMESソリューション、ファクトリートラックを導入し、タブレット・タッチパネルによる操作により、従業員の勤怠管理、製造スケジュール実行処理などを自動化した。
続けて金原氏が紹介したのが、今回のセッションの主眼といえるインフォアのERP、SyteLine(サイトライン)だ。すでに製造業に25年以上の導入実績がある製品である。 フルセットのERPとして多言語、多通貨、多拠点に対応し、ユーザーのカスタマイズ要求に簡単に応える柔軟な開発環境が提供されている。アプリケーションをカスタマイズするときにコードを書く必要は無く、たとえば受注の入力、受注の承認、それから在庫引き当てなどといった手順が用意されていて、それをパラメーターで繋ぐだけでたとえば処理の自動化が行われる。
例外事項が発生した場合、自動的に情報を収集する仕掛けになっており、業務担当者の作業が大幅に軽減される。情報を探すことに時間が取られない。しかも、すべてブラウザで使用できる。 また特に東南アジアではExcelの利用率が高いことから、そのファイルからの一括登録を可能にし、操作効率を向上させている。
またMRP(資材所用計画)とAPSエンジンの組み合わせにより、製造ライン別の製造スケジュールの進捗状況を一覧できる。計画変更もドラッグ&ドロップで可能だという。また、在庫管理では、あらゆる数値情報を視覚化し、在庫の回転率や滞留時間などが設定したしきい値を超えるとダッシュボード上かメールで警告してくれる。
「製造管理で求められる情報を、特にカスタマイズすることなく標準で乗せられるようになっており、コーディングなしでロジックやワークフローを組み込むことができます。 カスタマイズ部分は、標準機能に影響を与えずに追加できる構造を有しているので、SyteLineのバージョンアップの後も継承されます。つまり、問題になりがちなERPの硬直性をなるべく排除して、追加機能を乗せていくことができるのです」(金原氏)
金原氏は最後にインフォアのBIツールを簡単に紹介し「これまで紹介したERPとMESのソリューションにより、ERP導入にともなう入力等の怖さとか、工場の操作感とかが大きく軽減されることになります」と述べた。
NTTコミュニケーションズが語った「グローバルITのための課題と選定プロセス」
3番目に、NTTコミュニケーションズ株式会社 クラウドサービス部 販売推進部門 主査 佐橋由久氏が「グローバルキャリアクラウドとその活用事例~事業の海外展開に対する情報システムの構築ノウハウ」と題した講演をおこなった。グローバルビジネスを展開する企業にとって、全社的なICT環境の統合やセキュリティを含めたガバナンス強化は喫緊の命題だが、その実現にはさまざまな課題が立ちはだかっている。佐橋氏によると、現状のグローバル企業の課題は業務の効率化、意志決定の迅速化、収益力の向上であるが、そのためには、グローバルレベルでのITの標準化、統合が必要となる。しかしながら現状では、まだまだ十分ではないという。
NTTコミュニケーションズの調査によると、現在のグローバルでのITの標準化のパターンは3つある。(1)中央集権型--本社レベルでの完全な標準化と統合、(2)連邦型--本社で統制しつつ地域ごとに個別に集約、(3)完全個別型である。現状では、(3)の個別は減ってきているが、(2)のパターンが一番多く、大規模ERPと中規模ERPのハイブリッドで展開していく企業が多いという。
「クラウドによるグローバル標準化をおこなう場合、SaaS一体型から、NTTコミュニケーションズのIaaSの上にインフォアをはじめとしたERPをのせていくなどの様々な選定ポイントがあります。リージョンごとのニーズと本社とのギャップなどをうまく調整しながら、人・IT・コストそれぞれのギャップのバランスをどうとるかが課題です。拠点が増えるごとに業務プロセスが複雑化するために、今後は個別システムを標準化の方向でマイグレーションしていく流れはますます増えるでしょう」(佐橋氏)
佐橋氏は、その課題への取り組みとして、世界13か国16拠点(※2015年開通予定拠点を含む)に展開するNTTコミュニケーションズの「グローバルキャリアクラウド」を紹介し、キャリアならではのDC・NW基盤を活かした高信頼なクラウド活用により、現地負担を軽減し、標準化を推進していく方向性を提示した。
このように、ERPのマイグレーションをめぐって、3氏の講演は、経営のグローバル化を支える戦略的なクラウドの活用方法を考える上で重要な内容であった。
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