EMCが体現する「REDEFINE.NEXT」
EMCジャパンは6月に同社が主催したセミナーで、EMCの年間最大イベント「EMC World」(2015年5月開催) で発表した同社の新たなビジョンと戦略を説明した。
それは「新たなデジタルの波」という言葉から始まった。デジタルはもはや我々の生活や経済活動の基盤となっている。今クラウドやモバイル、ソーシャル技術が無くなったら生活にとても不自由を感じるだろう。生活レベルが下がったと感じるほどに。いまや、移動手段や食事、ペットや家の状況に至るまで、スマートフォンと指先一つで簡単にアクセスすることができる。その活用が依存ともいえるレベルにまで到達しつつある中で、顧客が見ている指の先の世界で起こっている様とその変化のスピードに企業はどれだけ対応できているだろうか。
我々はそのデジタルの波を日常的に目にしているはずだ。たとえば、デジタルを活用した配車サービスのUBERは創業わずか5年で時価総額400億ドル(4兆8000億円)を上回るほど急成長し、これまで業界のトップを走ってきた企業ですら、大幅な値引きを余儀なくされるなど、ビジネスに大きなインパクトを与えている。今顧客とビジネスのデジタルへのシフトが市場の競争原理を根底から変えようとしている。
「これまでも変化は繰り返されてきました。1955年のフォーチュン500のうち、89%の企業は既に存在しません。特別なことではなく、これからも起こるであろうことを理解する必要があります。」と若松氏は念を押す。さらに、2020年には70億の人間と300億のデバイスがネットにつながり、44ゼタバイトのデータ量が生じるという。デジタル時代の到来に、企業はどう行動していくべきか。
現場としては「そうはいっても」である。これまで多大な投資をしてきたレガシーシステム上で今まさにビジネスが稼働している。新しいプラットフォームへ投資をシフトするためには、その既存システムにもメスを入れて、運用の質の向上やコスト削減も平行して行わなくてはならない。
「今既存のプラットフォームで稼働しているものを100%第3のプラットフォームに移行するという選択は現実的ではないでしょう」と若松氏は第2と第3のプラットフォームは長期に共存すると見ている。そのため、第2と第3のプラットフォームの両方を共存、ビジネスに応じて柔軟に選択できるソリューションを提供していく考えだ。
まずは実存する第2のプラットフォーム。そのメリットは信頼性や安定性にある。それらを維持したまま、コスト効率を上げていく必要がある。そのためにEMCが強く推すのはフラッシュだ。「オールフラッシュが全てを変えます」と若松氏は言う。
EMCはフラッシュ製品を早くから発表してきた。今では第4世代となるオールフラッシュ製品「XtremIO」を提供している。EMCが「THE BEAST(野獣)」と呼ぶほどの強烈な製品だ。柔軟で高速なスナップショットや災害対策といったエンタープライズ品質を保ちながら、インライン重複排除とデータ圧縮によりデータ量を大幅に削減し、従来のハードディスクベースのストレージよりコストを削減することも可能となっている。昨年だけでも2000台以上を出荷するなど急速に普及している製品だ。
ミッションクリティカル環境向けのハイエンドストレージとして提供してきたVMAXも第3世代のVMAX3の提供を開始している。もはや単なるハイエンドストレージではなく、クラウドを含めたあらゆるストレージリソースを必要に応じた最適なコストでサービスとして利用する機能を提供するエンタープライズデータサービスプラットフォームとして進化しているという。
さらにミッドレンジのユニファイドストレージでは、その機能をハードウェアから分離した「vVNX」というソフトウェアをx86サーバや、既存ストレージの余りリソース、スイッチ、クラウド基盤上等に展開して利用できるようにしていく。エンタープライズストレージの機能を様々なハードウェア上で利用できることで、エンタープライズストレージ機能の利用方法をユーザーが柔軟に選択して、コスト効率を向上させることができる。今回第一弾として、提供を開始したvVNXコミュニティエディションはテスト・開発用途向けで、無償で利用できる。
EMCはオープンソースに本気である
そして未来に向けた第3のプラットフォームである。ここでは何よりもスピードが重要であり、ビジネスの変化に対応できる選択肢や柔軟性も必要だ。
そのために、EMCは3つの「スピード」を向上させる手段を提供していく。
まず、デジタルの世界でユーザーにリアルタイムに影響を与えるためのリアルタイムアナリティクスに対応できるスピード。
さらに、ストレージリソースを必要に応じて迅速に利用するためのスピード。
そして、ストレージリソースを物理的に用意するために必要な構築・運用のスピードである。
リアルタイムアナリティクスのスピードに対応する上で考えるべきポイントは何か。まずハードウェアのリソース間の応答時間を見てみよう。CPU、SRAM、DRAM、サーバーサイドフラッシュ、オールフラッシュアレイへと、CPUからの距離に比例して、応答時間と拡張性が増大する。そして、「第3のプラットフォームで重要となるのはココです」と、若松氏はDRAMからサーバーフラッシュのあたりを指した。
「リアルタイムアナリティクスにはDRAMレベルの応答性能が必要です。かたや、拡張性はサーバフラッシュまたはそれ以上のものが今後必要となります。 CPUから距離を離さずに、拡張性を高めるソリューションが必要になります」(若松氏)
それを実現するのが、DRAMの拡張として使用でき、ラックスケールの拡張性を提供するDSSDだ。EMCが2014年に買収。こちらもフラッシュ製品だ。XtremIOは業務アプリケーションやデータベースの仮想化基盤、仮想デスクトップ等の第2のプラットフォームでの適用が想定されているのに対し、DSSDではインメモリデータベースなど第3のプラットフォームでの活躍が見込まれている。
次に、必要に応じたリソースを利用するスピードだ。これにはx86サーバの内蔵ディスクをサーバ間にわたってプール化し、ブロックストレージとして使用することを可能とするEMCのソフトウェア製品ScaleIOで対応を強化した。x86サーバがあれば、簡単にエージェントをインストールして、オンラインでサーバの増減により容量と性能を増減できるが、それだけではない。今回、ScaleIOの無償提供を開始した。無償提供というと何らかの制限がつくものが多いが、若松氏は「機能制限なし。容量制限なし。期間制限なし」と胸を張る。社内にサーバがあれば、アジャイル開発のための一時的なストレージリソースをコストをかけずにすぐに簡単に作ることができる。無償化によって、さらにストレージリソースを利用するスピードが向上することが期待される。
そして、構築や運用にもスピードは重要だ。ソフトウェア定義とはいえ、必ず何らかのハードウェアが必要になる。利用できるx86サーバが無いとき、もっとも構築、運用を早く、簡単にするものが、「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ」だ。サーバ、ネットワーク、ストレージのすべての機能を抽象化し、サーバ上に展開したものをアプライアンス化した製品だ。サーバを追加するだけで、シンプルに拡張できるスケールアウトアーキテクチャがベースになっている。ソフトウェアのアップデートや保守も一元化される。EMCが提供するハイパーコンバージドインフラストラクチャには、VMwareのvSphereとvSANをベースにした「VSPEX Blue」とハイパーバイザ非依存でScaleIOをベースにした1,000ノード以上に拡張できるラックスケールの「VXRACK」の2つあり、既存のお客様環境や拡張性要件に応じた選択肢として用意している。
そして、最後に2015年のEMC World最大のサプライズとして、大きく打ち出されたのがオープンソース化だ。EMCというと独自技術により先進性を提供してきたイメージが強く、「オープンソース」という単語が出てくること自体が「意外」と受け止める人が多かった。しかしEMCは本気である。
EMCは自社製品をオープンソース化することで、自らユーザーに対してEMCのロックインを排除し、ユーザーに最大限の選択肢と柔軟性をもたらすことが基盤技術として選ばれる上で重要であることを理解している。
今回、第一弾としてオープンソース化が発表されたのは、ソフトウェア定義ストレージとなる「ViPRコントローラー」のオープンソース化だ。第2第3のプラットフォームで利用される様々なストレージを一つのインターフェースでプロビジョニング、利用するためのソフトウェア定義ストレージの一つだ。この製品によって、第2第3のプラットフォームの違いを意識することなく、多様なストレージを使い分けることができる。この製品のソースコードを「CoprHD(カッパーヘッド)」というプロジェクト名で6月よりコミュニティに公開している。コミュニティにてオープンでスピーディーな開発を促進するとともに、EMCの枠を超えて幅広くユーザーの声を反映させることでよりよい製品にしようとしている。
時代だけではなく、EMCそのものが第3のプラットフォームへと意欲的に変化している――そんな印象を受けた。