IoTや他社サービス連携で付加価値を提供
こうした様々なデジタル施策を支えるITインフラ上で、ヤマハ発動機はスマートフォンアプリやIoT、BaaSなどの活用によって新しい付加価値を提供しようとしている。それが「つながるバイク」の基本構想だ。 自身が保有するバイクの情報を「RevNote」に入力して車両情報管理を行ったり、位置情報サービスと連携して「RevQuest」でゲームや外出スポット情報を楽しんだり、今後は他のサービスと連携して「できること」を増やすことも可能だろう。
フロント側はAWSを選択し、データを保持せず処理のみを行う。そしてBaaS「Appiarie」(アピアリーズ)を連携させて会員情報や車両情報、給油記録などを蓄積し、会員認証はASPで行うという仕組みだ。
提供を開始したのは2013年3月だが、常に刷新しながらサービスを提供し続けているという。開始当時はiOSのみ対応だったがやはりAndroidにも対応することが求められ、二重プラットフォーム化したものの、コストや開発の負荷軽減を目的に現在ではハイブリッドAppで構築されている。ただしネイティブアプリのような凝った演出はできないことが目下の悩みだ。
またバックエンドについても、当初はプラットフォーム利用(PaaS)だったが、オーバースペック気味な上にOSの管理コストがかかることから、仮想サーバー(IaaS)へと切り替え、さらなるコストダウンを目的にバックエンド機能の全てをクラウドサービスとして利用するBaaSまで広げている。こうした様々な調整の結果、当初に比べて年間の開発費は1/4に、年間の運用費は 1/5にまで削減できたという。
なお現在、『つながるバイク』における「RevNote」の会員数は48,000を超え、登録されているバイクの数は25,000台を超える。また「RevQuest」では登録スポット数は2,500カ所に上り、投稿された写真も15,000枚を超えた。そうした蓄積データから圧倒的に男性が多く、20代と40代後半から50代前半の2つの山があり、約半数がヤマハ以外のバイクを登録していることが見えてきた。
また、新種購入から1ヶ月以内のメンテナンス記録から、「走り」や「長距離走行」を意識したベテランライダーが多い排気量400cc以上の車種もあれば、125〜400ccクラスではエントリーライダーが多いこと、125cc以下のあるモデルではヘッドライト周りの不満があることなど、様々なユーザーの姿が浮かび上がってきた。また、チェックインスポットでのチェックインの記録なども蓄積されており、今後ますます興味深いデータ分析が期待される。
『つながるバイク』が目指すものとして、原子氏は「販売後もお客様とつながっていることで、バイクの使用状況がわかり、関係づくりを強化できる。さらには、蓄積したデータをマーケティングに活用し、新たなニーズの発掘やビジネス展開につなげることができる」と語った。
そして、最後にこうしたヤマハ発動機のデジタル施策を支えるITにおいて意識すべき点として、「ビジネスファーストとして機会損失をさせないインフラ構築」、「スモールスタート、トライアル&エラーの重要性」を強調。また個人情報の保持をはじめとするセキュリティ重視や、様々なテクノロジーを組み合わせる適材適所の考え方の重要性などを語った。
そして、様々な技術を組み合わせるにあたり、巨大な組織になればなるほど“つなぎ目”が難しくなることを強調。そうした現状を課題視していることを明かしつつ、「ぜひとも守りに入らず、様々な課題解決のために果敢に新しい技術に挑んでいってほしい」と結んだ。