フレキシブルに活用できるインフラづくりが課題に
社外への情報発信を含めたデジタル化の取り組みについては、1997年のホームページ立ち上げに始まり、比較的早期から段階を追って様々な取り組みを展開しているという。
インターネットの黎明期から、クラウド、ソーシャル・モバイル、ビッグデータ、そしてIoTまで、いわゆる“ITトレンド”を敏感に察知し取り入れてきた。そのために、ITのインフラや体制についても積極的に刷新を行ってきたという。
「当初はWebサイトを担う広報部を、情報システム部門がインフラで支える形だった。それが、次第にマーケティングへのニーズが高まり、エンタープライズITだけでは賄いきれず、新たなチームができることとなった。スピードが求められるため、スモールスタートでスパイラルに発展させていく手法が採用だが、製造業の管理部門を担ってきた部門からみれば“チャラい”とみられたようだ」と原子氏は振り返る。
そして、情報発信・マーケティングにおける施策とそれを支えてきたITインフラの関係について、3つのタームごとに紹介した。
1.ホームページ(1997年〜)
まず、ヤマハ発動機のデジタル戦略の口火を切ったのは、インターネットが普及し始めた1997年に立ち上げた「ホームページ」である。直後にハッキングされた経験から、当初からセキュリティ対応への要望が高かったという。早々にガイドラインの策定とファイアウォールで徹底したポート制限を行い、個人情報にはSSL、サーバは定期パッチと基本的なセキュリティは施していた。
しかし、グローバル化に伴う全世界対応や、リッチで高速なコンテンツ配信に伴う高トラフィック対応が求められるようになり、社内システムとはまた異なるサービスレベルが求められるようになった。そこで、その実現のためにシステムを増強し、負荷分散装置とCDN(Contents Delivery Network)で、“止まらない”高速なコンテンツ配信を実現させたという。
2.Webマーケティング(2000年〜)
Webマーケティングについては、ユーザーとのコミュニケーション・ECを安全・安心に実現することをミッションとして掲げ、コールカスタマーセンターのデジタル化やレンタルボートの事業化、ECサイトによる販売や店舗連携などを実現させてきた。ここでも24時間365日、止まらないことを重視し、レコメンデーションなど、ユーザーとの親密な関係づくりや販売店との連携などを模索している。
「レースのプレミアムモデルなどのスペシャル商品販売やタイムリー性の高いイベントの情報など、セキュリティなどの要件を満たしつつも、短期間でサイト準備をすることが増え、しかも短期間しか使わないことも多い。そうしたニーズへの対応が要件となっていた」と原子氏は説明する。
そして解として、短納期・短期間利用が可能な「クラウド」の選択と積極的な活用を行ってきた。2007年にはAWSを採用し、さらにWebサーバ向けの構築手順を策定し、それまで2ヶ月かかっていた開発をわずか1週間で実現できるようにしたという。また、セキュリティに関しても個人情報や決裁システムを外部化するなど、内外の責任の切り分けを行っている。
3.デジタルマーケティング(2010年〜)
そして、近年ではWebサイトのみならず、SNSや店舗なども含めた総合的なデジタルマーケティングとして、様々な取り組みに着手しているという。原子氏はその意図について「ネット上の情報が充実し、SNSなどが普及するにつれ、お客様の購買行動が大きく変化した。いまや80%のお客様は買うものを決めてから店舗に見えられる。つまり、来店前に、カタログやその他でヤマハの商品や情報に多く触れていただくことが重要」と説明する。
まず、全国140カ所で最新のボートをレンタルできるというレンタルボートクラブ「Sea Style」が紹介された。パソコンやスマートフォンから条件を絞り込んで、レンタル予約までできる。3年で艇を入れ替えるために、生産の定常化が可能になり社内的にも評価されているという。さらに、ネット上で2級ボート免許取得を支援するサービスも開始している。
そして、ユーザーへの付加価値を高めることを目的として、特に近年力を入れて提供しているのが、バイクと連携して駐車場や燃費などの情報を活用する「RevNote 」や位置情報ゲーム「RevQuest」、パーツカタログやスマートライディングなどといったスマートフォンアプリだ。これらを支えるのもまたクラウドとPaaS、BaaS、SaaSなどの外部サービスとなっている。
デバイスのIoT化も積極的に展開中だ。IPアドレスが付与されたバイクも登場しており、Wifiを通じて設定を行ったり、燃費のデータを取り出したりすることができる。むろん、前述の「RevNote」と連携可能となっている。また、バイク以外のロボットなど製品についても同様にネットワークにつながっており、吸い上げたデータを活用するなどIoTの取り組みも着々と進められている。