政府の働き方改革実現会議の活動を機に、働き方改革がキーワードとして注目を集めている。マネジメントの在り方や企業文化・習慣の変革と並び、ITの活用は従業員の生産性を高める有力な手段であり、従業員がITを十分に活用できているかは早期に改革を実現する重要な指標となる。
ガートナーが、2017年4月に実施したデジタル・ワークプレースに関する国際比較調査の結果、日本の従業員は、他の先進国に比べてITスキルが低く、IT装備が古いという結果が出るなど、働き方改革を実現していくうえで、さまざまな問題があることが明らかになった。
日本は業務用途のデジタル・テクノロジのスキルに関する自己評価が最低点
業務用途のデジタル・テクノロジのスキルに関する自己評価、すなわち自身のスキル・レベルをどう捉えているかに関する比較では、日本は自分を「素人」ないし「中程度」のレベルと考える従業員が6割近くを占め、調査した7か国中、最も自己評価が低い結果となった。逆に、「熟練」「エキスパート」の合計値が最も高かったのは、米国の77%(熟練61%、エキスパート16%)だった(図1)。
日本の業務用途デバイスとアプリケーションは旧世代が多く、満足度は低い
自組織における作業用デバイスとアプリケーションの新しさに関し、日常的に業務で利用しているPC、スマートフォンを含む携帯電話、業務用アプリケーションなどについて、どれくらい新しいものを使っているのかを尋ねた結果、日本は「かなり古い」と「2~3世代遅れ」を合わせた回答率(36%)が他国と比べて最も高い結果となった。最新の装備を利用している割合が高い国はフランス(43%)、次いでシンガポール(38%)だった。
一方、それらの満足度を尋ねた質問(最高7点~最低1点の7段階)では、総じてデバイスやアプリケーションの新しさとその満足度に明らかな相関関係が見られた(例えばデバイスの場合、デバイスが「かなり古い」従業員の満足度は3.4、「2~3世代遅れ」が同4.3、「1世代遅れ」が同5.1、「最新」が同6.0)。日本の満足度の総合平均点はデバイス、アプリケーション共に4.7で、他の6か国がすべて5を超えているのと比較してかなり低い結果となっている(図2)。
日本はデジタル・スキル習得の手段や機会が少なく、自らも「関心がない」とした割合が最高
図3はデジタル・スキルを獲得するための手段と機会、例えば、オンライン・セルフトレーニングや各種のトレーニングをどれだけ活用しているかを比較したもの。他国は日本以上にデジタル・スキルの獲得に注力していることが見てとれる。
注目されるのは、デジタル・スキルを習得するための手段と機会に「関心なし」として、ITスキルの向上に初めから消極的な従業員の割合が16%と7か国の中で日本が最も高い点だ。こうした従業員は、トップダウンでITによる改革をいくら進めても、過去の自らの成功体験に対する執着が強いリーダー的存在あるいは自己の流儀を変えようとしない人々である可能性が高く、それだけに解決が困難な問題といえる。
ガートナー ジャパンのソーシャル・ソフトウェア&コラボレーション バイス プレジデントである志賀嘉津士氏は、これらの調査結果を踏まえ次のように述べている。
「働き方改革は、ITだけで成功するものではありません。しかし、日本はまず本調査結果の客観的な事実を受け止め、従業員のワークプレースにおけるITの刷新も含めて、従業員のデジタル・スキルの向上に努めなくてはなりません。CIOは働き方改革の本質を理解し、そのために必要となる目的を明確に設定し、CEOの強力な関与を求める経営課題として進言する必要があります」。
また、志賀氏は今後の対策について次のように述べている。
「デジタル・スキルを向上させるためには、さまざまな教育が必要になりますが、それに加えて、ガートナーはいくつかの成功事例から次の2つの工夫が有効であると考えています。1つ目は、エリート・チームの編成です。まずはITの活用による成功の効果を示し、次第に全体を巻き込む戦術です。2つ目は、デジタル・ワークプレース・リーダーの任命です。ビジネス部門でITに強い人や、IT部門でビジネスに関心のある人を選び、デジタル・ワークプレース・リーダーとして組織内に一定の割合で分散的に配置させます。デジタル・スキルがスムーズに伝播する組織に変える戦術で、ボトムアップの意思決定プロセスに慣れた日本には向いている手法といえるでしょう」。
なお、ガートナーでは3月15~16日、『ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット 2018』を開催する。サミットでは、前出の志賀氏ならびにガートナーの国内外のトップ・アナリストが、デジタル・トランスフォーメーション実現の鍵としての「アプリケーション戦略」と「アプリケーション・アーキテクチャ」を柱に据え、最新の調査結果や事例を基に知見を提供するという。