米インフォマティカ(Informatica)は現地時間2026年5月19日、米国ネバダ州ラスベガスで年次カンファレンス「Informatica World 2026」を開幕した。Salesforce傘下となってから初めて迎える大型イベントで、自社UIを持たずAPIやオープンプロトコル経由でデータ管理機能を提供する「Headless Data Management(ヘッドレス・データマネジメント)」戦略と、AIエージェント連携の業界標準規格「Model Context Protocol(MCP)」の全面採用を発表した。あわせてエージェントAI向けの新製品群も披露し、Salesforceとの統合によるエンドツーエンドのデータ基盤戦略を打ち出した。
基調講演の冒頭に登場したSalesforce Data Foundations部門プレジデント兼GMのRahul Auradkar氏は、インフォマティカの買収を「エンタープライズソフトウェア史上最も相乗効果の高い買収だった」と位置づけた。「AIエージェント、特にSalesforceのAgentforceがその真価を発揮するには、あらゆるプラットフォームを横断する『信頼できるデータの土台』が不可欠だ。インフォマティカはその裏側で全方位のデータをつなぐ役割を担う」と述べ、Salesforceのプラットフォームを軸にデータ管理機能を統合していく方針を明らかにした。
SalesforceプレジデントCTOのMuralidhar Krishnaprasad氏は、エージェントAIの本番運用におけるデータ品質の重要性を強調した。カナダの航空会社でAIエージェントが誤情報を提供したことで法的責任を問われた事例を挙げ、「エージェントが正しいデータと正しいコンテキストを持って動作することが極めて重要だ」と語った。Salesforceが社内で36の異なるシステムにある顧客データをインフォマティカのMDMで統合し、Agentforceに供給している事例も「Customer Zero」として紹介された。
今回の基調講演で最も注目を集めた発表が「Headless Data Management」だ。これまでインフォマティカのIDMC(Intelligent Data Management Cloud)は専用UIを前提としたローコードプラットフォームとして提供されてきたが、今後はデータ品質管理、データカタログ検索、MDMといった機能群をすべてAPIやオープンプロトコルを通じて外部から呼び出せる構造に転換する。製品開発担当のPratik Parekh氏は「開発者たちはVS CodeやCursorといった慣れた環境を離れたくない。コンテキストの切り替えをなくすことが生産性を最大化する」と説明した。
これにともない、AIエージェント連携の標準規格として急速に普及しているMCPをインフォマティカが全面的に採用することが発表された。インフォマティカの機能が「MCPサーバー」として振る舞うことで、Anthropicの「Claude」やAIコードエディタの「Cursor」、「Slackbot」、AWSの「Amazon Q」などといった外部のAI環境から、複雑なパイプライン設定なしにインフォマティカのデータ管理機能を直接呼び出せるようになる。基調講演のデモでは、VS Code上のClaudeを使って財務照合パイプラインを自然言語で指示するだけで、SOXコンプライアンスのポリシー適用やデータ品質チェックを含むパイプラインが自動生成される様子が披露された。
プラットフォーム統合においても複数の発表が行われた。SalesforceのAgentforceとの連携強化のほか、AWSの「Agent Registry」やAmazon QへのMCPサーバー統合、Google CloudのGemini Enterprise Editionを通じた自然言語インターフェースの提供、Snowflakeのオープンデータフォーマット「Apache Iceberg」テーブルへのガバナンス対応、DatabricksのUnity Catalogとのメタデータ連携が発表された。Auradkar氏はAWS、Google Cloud、Databricks、Snowflakeといったエコシステムにおいてインフォマティカが「中立的な役割」を果たすとし、特定クラウドへの依存を前提としない戦略を強調した。
MDMセッションではManouj Tahiliani氏が、新製品「Informatica Agentic Multi-Domain MDM」を発表した。AIエージェントのワークフローに直接MDMのスキルとツールを組み込める「Headless MDM」アーキテクチャを採用し、MDMの「ゴールデンレコード」生成をAPIで外部エージェントから呼び出せる設計とした。デモでは、Slack上のデータスチュワード・エージェントが一晩で50万件のレコードを自動処理し、判断できなかった12件のみを人間に通知する場面が示された。Arrow ElectronicsのMolly Engleking氏は「41種類あった『顧客』の定義を1つに統合した経験があるが、エージェントがそのプロセスを支援してくれることへの期待は大きい」と語った。
データガバナンスセッションでは、PepsiCoのCarla Eid氏が自社の最新の取り組みを紹介した。現在、同社では1,500を超えるAIアシスタントやエージェントが稼働しているという。Eid氏は「インフォマティカのCLAIRE Agentsを導入したことで、メタデータのスキャンや機密情報へのタグ付けといった作業が自動化され、これまでデータスチュワードが数週間費やしていた作業から大幅に解放された」と述べた。また、「AIが期待通りに成果を出せない原因の多くは、LLM自体の限界ではなく、十分なデータコンテキストが提供されていないことにある」と指摘した。
今後のロードマップとして、MCPサーバーの本番提供、CDGC(Cloud Data Governance and Catalog)のSlackネイティブアプリ化、非構造化データのガバナンス機能の大型アップデートが2026年後半に予定されている。Databricks向けのMDM機能拡張やリテールバンキング向けのMDM特化機能も開発中だとした。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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