セールスフォースは2026年8月17日、企業がエージェンティックAIをパイロットから本番運用へ安全かつ効率的に移行するための「MuleSoft Agent Fabric」新機能群と、AIエージェントの制御プレーンとなる新ソリューション「MuleSoft Omni Gateway」を日本市場で提供開始した。あらゆる場所で動くAIエージェントを一元的に発見・連携・統制し、AIコストを可視化しながら安全に本番環境でスケールさせることを狙う。
セールスフォースによれば、AIエージェントは実験段階から実運用段階へ急速に移行する一方、企業は2つの構造的な課題に直面している。1つはAIエージェントの乱立だ。「2026年版 接続性ベンチマークレポート」によると、日本のITリーダーの76%が、AIエージェントが価値よりも複雑さを増すのではないかと懸念しているという。もう1つがAIコストの管理で、トークン消費量は4年で24倍に急増すると見込まれている。ある企業では、社内のAI消費量が18カ月で1日10億トークンから270億トークンへ急増したものの、それに見合うビジネスバリューは得られていないとしている。
セールスフォースの三戸篤氏は、AIコストの管理が新たな経営課題になっているとして、「Uberは2026年度のAI予算を4カ月で使い切ってしまった」、AT&Tでも18カ月でAIトークンの利用が当初の10億から270億まで膨れ上がり、「膨れ上がったことに見合うビジネスバリューを得ていないのではないか」という声が顧客企業から相次いでいると具体例を挙げた。
MuleSoft Agent Fabricは、発見・オーケストレーション・ガバナンス・監視の4層で刷新した。発見層では、「Agent Registry」と「Agent Scanner」により、Salesforce Agentforce、Amazon Bedrock、Google Cloud Vertex AI、Microsoft Copilot Studio、Kong、Claude、Databricksなど既存のエコシステムを継続的にスキャンし、AIエージェントやMCPサーバー、APIを自動登録する。Official MCP Registryなど公開MCPサーバーも含めて一元的にカタログ化し、企業全体のAI資産をリアルタイムに可視化するという。
オーケストレーション層を担う「Agent Broker」は、エコシステム全体のAIエージェントとツールを最適なタイミング・相手に振り分け、複数のAIエージェントをまたぐマルチステップのワークフローを、決定論的な制御とエージェンティックな推論を組み合わせて実行する。淺井龍太氏は、他社のオーケストレーターの多くがAIの推論任せで呼び出し順を決めているのに対し、Agent Brokerは決定論的な動きを定義する「Agent Script」を組み込み、推論と決定論的な制御を共存させている点を強みとして説明した。
ガバナンス層は、MuleSoft Omni Gatewayを中核とする「Agent Governance」が担い、あらゆるAIエージェント・MCPサーバー・LLMにわたるコスト、利用状況、セキュリティ、コンプライアンスを単一の管理ポイントで統制する。「Trusted Agent Identity」により、各AIエージェントが特定ユーザーの権限のもとで動作することを保証し、エージェント間のやり取りを安全かつ追跡可能にするという。監視層の「Agent Visualizer」は、AIエージェントネットワークとその関連ドメインを可視化するビジュアルマップを提供し、信頼度スコアやボトルネックの検出、ハルシネーションリスクといった指標により、開発時の配線確認から本番運用時の障害追跡、パフォーマンス最適化までを支援する。
淺井氏は、こうした基盤が必要になる背景として、多くの企業が目指すアーキテクチャ像「Agentic Enterprise」を挙げた。あらゆる業務にAIが組み込まれ、AI同士がビジネスのKPIに基づいて計画・推論・実行を繰り返す姿だという。一方で現状の多くの企業は、数十年にわたるプロジェクト単位のシステム構築によってデータや連携がサイロ化した「Complex Enterprise」の段階にとどまっているとし、業務ロジック単位で再利用可能なAPIを組織の資産として整える「Composable Enterprise」を経る段階的な変革が必要だと述べた。
もう一方のAIコスト管理に対応するのが、MuleSoft Omni Gatewayだ。既存のゲートウェイやプラットフォーム全体にわたり、AI・APIのトラフィックとトークン消費を一貫したポリシーで管理し、コストの可視化とガバナンスを両立する。
Omni Gatewayは5つの機能で構成する。単一のカタログでMuleSoft、Kong、Apigee、Azure、AWSの各ゲートウェイにわたり一貫した可視性と実行時のポリシー適用を実現する「Federated Visibility」、既存のAPIを数分でMCPサーバーに変換し、認証ポリシーをソースAPIから自動的に継承する「APIからMCPへの変換」、ゲートウェイがトークン消費状況をリアルタイムで追跡し、トークン制限やレート制限を同一のポリシー層で適用する「一元化されたトークン管理とLLMルーティング」を備える。加えて、API呼び出しやツール起動、AIエージェントへの委任などチェーン内のあらゆるインタラクションを相関IDで追跡する「エンドツーエンドのモニタリングと監査」、エージェント間のインタラクション全過程にセキュリティ・コンプライアンスポリシーとIDの伝播を適用する「組み込み型のコンプライアンスとIDの伝播」を備えるという。
MuleSoft Agent FabricとMuleSoft Omni Gatewayは、いずれも同日から日本市場での提供を開始しており、AIエージェントの乱立とAIコストの膨張という2つの課題に、発見から統制、コスト可視化までを一気通貫で対応する体制を整えたことになる。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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