座談会参加者
- アップタイム・テクノロジーズ合同会社 永安悟史氏
- 株式会社アイ・ティー・ワン 恩田佳弥氏
- ミック氏
- 株式会社ラック 斉藤大輔氏
- IBM 苧阪浩輔氏、野間愛一郎氏
モデレータ
- DB Online チーフキュレータ 谷川耕一氏
Db2が指向する「HTAP」はどんな可能性を切り拓くのか?
谷川氏:データベース業界では最近、「HTAP(Hybrid Transaction/Analytical Processing)」が話題になっています。一言で言えば「トランザクション処理と分析処理を同じインメモリデータベース上で処理する」というコンセプトに基づく技術や製品のことを指しますが、Db2はこのHTAPに対して独自のアプローチをとっていると聞いています。
野間氏:他社のデータベース製品が、同じデータベースの中にトランザクション処理用の行指向テーブルと、分析処理に最適化した列指向テーブルを混在させるハイブリッド戦略でHTAPにアプローチしているのに対して、IBMは「BLUアクセラレーション」のインメモリ列指向テーブルの更新処理を速くすることでHTAPを実現しようとしています。
斉藤氏:列指向テーブルだけで、トランザクション処理と分析処理の両方をまかなおうというわけですね。大変興味深いアプローチですが、メモリの消費量やディスクへの書き出し量が多くなったりしないか、正直少し心配な面もあります。
ミック氏:そうですね。HTAPのアイデア自体は昔からあったのですが、その実践に当たっては、リソース制御がうまくいかずに頓挫することが多かったように記憶しています。情報系はリソース食いなので、物理的なシステムリソース(CPU、メモリ、ストレージ帯域など)を共有すると、基幹系を巻き込んでスローダウンやシステム障害を起こしてしまうことがたびたびありました。また、仮にリソースの問題が解決できたとしても、そもそも基幹系データベースが分析処理を前提に設計されていないので、単純にデータを共有するだけでは分析に耐えられないという問題もあります。逆に言えば、基幹系データベース側で初めから分析を意識したテーブル設計が行われていれば、HTAPの実現性も高まりますし、私たちデータベースにかかわる現場の技術者にとってもメリットは大きいと思います。
恩田氏:それはあるかもしれませんね。現状では、カタログやメタデータの情報をきちんと作ったり、基幹系から情報系にデータを移す際のETLでいろんな前処理を行ったりすることでギャップを埋めていますから、もし基幹側で分析を考慮したデータモデリングを行ってくれれば、前処理はかなり楽になるはずです。
永安氏:私は普段、まさにそうした前処理の仕事ばかりをやっている「マエショリスト」を自任しているのですが(笑)、そうした連携を可能にするためには、サービス担当者と分析担当者の連携が必須だと考えています。DevOpsで運用者と開発者が連携するのと同じようなイメージですね。もしこれが可能になれば、コード体系も整理できますし、いろんなメリットが見込めると思います。
谷川氏:確かに、DevOpsのような取り組みとHTAPとの間の親和性は高そうですね。
永安氏:HTAPに関しては、具体的なユースケースのイメージがもっと見えるようになると、使い道やお客様への提案内容も明確になってくるのではないかと思っています。確かに、オンライン系の機能と分析系の機能を融合させたハイブリッドアプリケーションの価値は高いと思いますが、そうしたアプリケーションを開発するのは現実的にはかなりハードルが高いのが実状ですから、HTAPによってそのハードルがぐっと低くなるのであれば、大いに期待できると思います。
ミック氏:HTAPの基盤に分析系のツールなどを組み合わせたパッケージソリューションのような形が、一番分かりやすいのかもしれませんね。ただ個人的には、これまで基幹系データベースと情報系データベースの融合に果敢にチャレンジして失敗に終わったプロジェクトを幾つも間近で見てきたので、HTAPのコンセプトは正直「ちょっと怖いなあ」という印象も拭えないんですよね……目指す価値のある理想だとは思うのですけど。