製薬企業独自の課題解決により沿ったデジタルトランスフォーメーションシナリオ
ところでヘルスケアの中でも、医薬品業界には独自の課題がある。その一つが医薬品の製造に大きなコストがかかること。医薬品の研究開発費は9年ごとに2倍となり、製薬企業の収益の10%から20%が充てられている。さらに新薬が市場に出るまでに15年もの月日が必要で、そのコストは25億ドルにも上る。他にも医薬品の特許が切れることで製薬企業の収益が悪化するので、計画通りに確実に新薬を開発する必要もあるのだ。
マイクロソフトではこれら製薬企業の課題対策を、4つのデジタルトランスフォーメーションシナリオに合わせてアプローチしている。1つめがチーム対応力の強化。デジタル化により創薬開発現場のコミュニケーションを促進し、働き方改革を実施する。それによりグローバル規模で創薬開発のための情報連携を図り、創薬発掘の迅速化などを支援している。2つめが、デジタル化による患者に対する適切な服薬管理の実現だ。これにはたとえば認知症患者などへの確実な服薬記録をと取るために、IoTなどを活用するのだ。それにより、家族の見守り負担を軽減する効果などが見込める。
3つめはデジタル化による臨床および運用の有効性の最適化で、機械学習やAI技術などを活用し研究開発部門での大量データ解析で意思決定支援の迅速化を行う。4つめはデジタル化によるヘルスケア全体の変革だ。これはたとえばデジタル化で製薬企業と医療機関の連携を強化し、処方薬影響の測定などを実現する。
マイクロソフトは上記のようなデジタル化による製薬企業の変革をサポートする上で、医薬品の開発、製造から管理、保管、流通に関わる全てのシステムをクラウドで安心して利用してもらう。そのために、グローバルな規制、ガイドラインにも対応する。これには、製薬企業がMicrosoft Azureの上で基幹システムであるSAP ERPを利用するようなものも含まれる。
たとえばSAPのERPをクラウド化するとなれば、3年ほど前から検討することになる。パブリッククラウドで動かすと、今まで自らオンプレミスで行っていたハードウェアやミドルウェアの管理をクラウドベンダーに任せることに。「たとえばSAP ERPをAzureで使う場合に、マイクロソフトは製薬企業が守るべきレギュレーションをどこまで保証してくれるのか。顧客が納得できるものを、ベンダーとして提供できなければなりません」と語るのは、日本マイクロソフト パートナー事業本部 パートナー技術統括本部 プリンシパルパートナーテクノロジーストラテジストの佐藤邦久氏だ。