現状の社内サービスは"駅の自動券売機"だ
加藤:今回はエンタープライズサービスマネジメント(ESM)の実現に向けて、久納さんにおうかがいしたいです。はじめに現在のお立場を教えてください。
久納:現在はソリューションコンサルティング統括本部で本部長をしていますが、ジャパンエバンジェリストのほうが本職です。サービスマネジメントやサブスクリプションビジネスの有用性を広め、お客様が新しいビジネスに取り組んでいただけるようにエンカレッジしています。
加藤:今回はサービスマネジメントについてということで、私がお客様とお話するときはITSMの話から入ることが多いのですが、久納さんはサービスマネジメントの現状をどう捉えていますか。
久納:サービスマネジメントは、三つの段階に分けられると考えています。ITサービスマネジメント、エンタープライズサービスマネジメント(ESM)、そしてビジネスサービスマネジメント。中でも、ESMは働き方改革にも通じています。社内のサービスを有効的にして、いいユーザーエクスペリエンスを提供するというものです。しかし実現できている会社はまだ多くありません。
例えば社員に子どもが生まれたとします。新しい健康保険証をもらいたいが、どこに問い合わせをしたらいいのか一目で分からない、だから無駄が多いしストレスもたまる。皆さんが普段使っているAmazonやUberのようなスマホアプリは、起動すればどう操作すればいいのか感覚的に分かるようになってきているのに、社内システムにおいてはそうしたことが未だ実現できていないんです。
加藤:社内システムの中にサービスはあるが探し出せないということですか?
久納:そうですね。ただ、実在するサービス自体も有用性と保証という面で良いサービスになっていません。例えば新しい健康保険証がいつ届くのかステータスが不明など。ユーザーが「このサービスを使うことでより良い結果が得られる」と思わないと使用すること自体に嫌気が差してしまう。価値を与えられていなければ良いサービスとは言えません。
一方でリクエストを受ける側を考えてみます。先ほど挙げた例でいうと、人事は社員から多数の問い合わせを受けています。今では申請書が紙からExcelシートに変わり、入力して送付してもらうようになりました。人事側で入力は不要になったとしても、社員は入力作業に手間がかかっていますよね。しかも複数の担当部署に対して同様の項目を入力している。これでは社内全体で見たら効率化が進んだとは言い切れません。
加藤:なるほど。
久納:わかりやすい例として、駅の券売機で考えてみてください。昔は駅で「池袋まで子ども1枚」と言えば、駅員さんが切符を発行し、子ども料金で「30円」と教えてくれました。しかし駅員が大人数必要になります。そこで自動券売機が登場しました。今度は乗客が駅にある大きな路線図を見て、行先までの料金を調べ、子どもなら「子ども」ボタンを押して切符を購入します。しかしこれでは駅員の手間は省けましたが乗客の手間は省けていませんよね。切符を間違えて購入して気付かなかったとしても自己責任です。
それがITの力によって変わりました。目的地までの料金を調べることなく、ICカードをタッチすればいいだけです。自動でチャージもできます。この例でいうと、現在の社内手続き(サービス)は自動券売機の段階なのです。そして、ESMとは社内で新しいユーザー体験ができるようなサービスを展開していくためのものです。