地方公共団体情報システム機構のWebページには、自治体クラウドとは『地方公共団体が情報システムを庁舎内で保有・管理することに代えて、外部のデータセンターで保有・管理し、通信回線を経由して利用できるようにする取組。複数の地方公共団体の情報システムの集約と共同利用を進めることにより、経費の削減及び住民サービスの向上等を図るもの。』と説明されている。自治体クラウドは2011年に総務省が実証事業を行い、その後も実際の事業として継続している取り組みだ。
重要な住民データを安全、効率的に管理する自治体クラウドとは
自治体クラウドの仕組みを構築し、九州地域の自治体にサービス展開しているのが、行政システム九州株式会社だ。同社の九州地区における自治体クラウドのシェアは30%ほどと高い。自治体クラウドは、AWSなどのパブリッククラウドを利用するものではない。「データセンターに標準化したシステムを置き、各自治体がそれを利用します。マルチテナントではなく、同じシステムを別々に立ち上げ利用します」と説明するのは、行政システム九州 エリア運用統括部 エリアサポート課 課長の竹之下伸一氏だ。
自治体クラウドの要件はかなり厳しい。「データセンターで利用する部分も回線も、閉域網で接続され二重化していなければなりません」と竹之下氏。データセンター内のサーバーを仮想化しその上で安全に分離して、さらにネットワークも完全に分離する。これらは最低限必要なこと。行政システム九州ではさまざまな自治体クラウドの要件を満たすシステムを2011年の実証事業で構築し、安全性や性能検証を行った。2013年からは、本番環境のサービスとして展開を開始する。
自治体規模が小さければ、十分な体制で高い安全性を確保してITシステムを運用することはなかなかできない。予算も限られ、十分な冗長構成も災害対策もとれないのが普通だ。たとえば沖縄の離島などでは、台風などの自然災害の被害を受け、ITシステムを設置している建物が停電することも十分考えられる。そういったところでは、手許にあるITシステムの停電時などの対応も、ITのプロではない役場の職員自らが行わなければならない。
そのため自治体クラウドは、大きな自治体で予算がそれなりに確保できるところより、規模が小さく予算もリソースも限られる自治体のほうがニーズが高い。自治体規模は小さくても、扱う住民データの重要性は大きな自治体と何ら変わらない。住民データを安全に高信頼性で管理し、自治体サービスを滞りなく提供する。そのためには、安価で安心して使える自治体クラウドのニーズは高いのだ。
行政システム九州ではさらなる自治体クラウドの効率性向上のために、福岡、佐賀で運用していたデータセンターを2015年に集約し、グループ会社のGcomが提供するデータセンターサービスのIaaSを利用する形に移行する。当初はこれで運用の効率性などが向上したが、利用する自治体が増えたことで事業者に支払うIaaSの利用費用も嵩んでくる。要件として利用する自治体ごとにサーバーを立て分離し運用しなければならないことも、IaaSの費用が高くなる要因の1つだ。
さらなるコスト削減のために、行政システム九州では自前のデータセンターでIaaS環境を構築しサービス提供する方針に変更する。