SAP買収後も独自の展開で急成長続ける
2018年に日本に事業所を開設したクアルトリクス。米国クアルトリクスは、ユニコーン企業として注目され上場を目前にしていたが、2019年にSAPに80億ドルという最大級の規模で買収された。SAPの戦略的グループ企業のひとつだ。先ごろおこなわれたSAPジャパンの社長交代の会見でも、SAPの今後のDXのための重点エリアとして、クアルトリクスと同社の事業である「XM(エクスペリエンスマネジメント)」が強調されていた。2月26日の会見(筆者はオンラインの会見で参加)では、同社のカントリーマネージャの熊代悟氏が、今年度の事業戦略の発表をおこなった。
発表によると、買収後も同社の独自の展開は維持されており成長は加速している。全世界での従業員数は現在3,250名、グローバルでの導入実績企業数は11,000社を超える。アジアパシフィック&ジャパン(APJ)でも成長は堅調で、導入顧客数は1250社を超え、年平均成長率(CAGR)は107%となっている。日本では167%の年度成長率で、導入企業数は140社を超え、全日空、BMWジャパン、富士通など大手企業からスタートアップまで幅広く導入が進んでいる。
同社の事業であるエクスペリエンスマネジメント(XM)とは、顧客、製品、従業員、ブランドなどのエンゲージメントを測り変革を支援していくというサービスだ。従来型の「満足度調査」にとどまるのではなく、「改善アクションの実行」につなげていくという点がポイントとなる。
XMでは、企業の売上や顧客情報、人事、会計などの「オペレーショナルデータ(Oデータ)」と、従業員や顧客のエンゲージメント度などの「エクスペリエンスデータ(Xデータ)」をかけ合わせ分析し、可視化することで改善プランを提示する。
SAPによるクアルトリクスの買収の背景には、「Oデータ」の最大企業であるSAPが、XMを戦略的に取り込もうという意図がある。熊代氏によれば、「XMは、ERPやCRMと同じぐらいの規模と重要性を持つ」という。
国内サポート体制とパートナー政策を強化
2020年度は、東南アジア、日本拠点での従業員を増強するとともに、香港、韓国、インドでも拠点が開設される予定。とりわけ日本では以下を実行するという。
- 国内サポート体制の増加:事例や調査の発信の強化
- XMの国内認知度アップと成熟モデルの浸透
- 国内パートナーエコシステム、カスタマーサクセス、サポートチームの増強
- 「カスタマーエクスペリエンス(CX)」「従業員エクスペリエンス(EX)」に加え、データ収集・分析・改善をおこなう「CoreXM」の拡販
- 米国で開催されてきたクアルトリクスのイベント「X4」の国内開催
日本の従業員エンゲージメントは低い
会見では、同社に新たにEXソリューションストラテジー ディレクターとして参加した市川幹人氏が登壇。同氏は銀行や組織人材コンサルを経て、従業員エクスペリエンス(EX)分野におけるエキスパートとしてクアルトリクスに参加。「従業員エンゲージメント」のトレンド調査の結果として、以下を発表した。
1.「従業員エンゲージメント」の世界比較で日本は低位
企業・組織の方針や戦略に共感し、誇りを持って自発的に仕事に取り組む「エンゲージしている従業員」についての調査で、世界の「従業員エンゲージメント」の平均は53%。日本は35%で一番低いという結果になった。市川氏は、「アンケート調査において、一般に中庸な選択肢を選びがちと言われる日本人の国民性もある」としながらも、日本企業は、従業員エンゲージメントを改善していくべきであるという。
2.「従業員エンゲージメント」を引き出す要因
エンゲージメントを向上させると考えられる要因としては、「リーダーに対する信頼感」「学習・成長の機会」「担当業務と全社戦略目標との関連性」「優れた業績の認知」「マネージャーによるキャリア開発支援」が、大きな要因となっている。これらの要因は、日本に限定した分析においてもほぼ同様で、経営陣や管理職がリーダーシップを発揮し、的確な意思決定を行い、従業員の担当業務の意味を示し、成長の機会を与えることで、従業員のエンゲージメントが左右される。
日本におけるエンゲージメントの影響要因としては、1)自社にとって適切な意思決定を行う経営陣に対する信頼感 (33%)、2)担当業務と会社の戦略的目標の関連についての明確な理解 (34%)、3)優れた業績に関する認知・評価 (35%)、4)従業員のキャリア開発を支援するマネージャー (29%)、5)業務を円滑に行うための研修機会 (24%)、の順となった。
3.従業員の声に耳を傾けることが従業員エンゲージメントに不可欠
従業員からのフィードバックプログラム(従業員の意見・提案などを収集するための仕組み)を設けている会社ではエンゲージメントが高い傾向があり、フィードバックの頻度がエンゲージメントスコアに影響するという結果になった。さらに、「会社が我々の声をもとに行動を起こしている」と従業員が感じているか否かによって、エンゲージメントスコアはより大きく異なるという。
こうした結果から、市川氏は「社員の声に耳を傾けているかどうか、さらにその結果を改善につなげているかどうかが重要」と語る。さらに、熊代氏は、「日本では予算の関係で、カスタマー・ファーストを目的とした導入が進んできたが、最近では従業員の納得感や充実感がなければ顧客への価値向上につながらないことに気づきはじめた」と語り、「エンプロイ・ファースト」の重要性を指摘した。