移転プロジェクトを機に顔認証を導入
「もともとコロナ禍の前から導入を始めたのですが、今から思えばタイミングが良かった」。そう話すのは、東京建物 総務コンプライアンス部の佐竹崇仁氏だ。同社では、2019年の秋に本社移転のプロジェクトにあわせAIによる「顔認証システム」を導入した。AI型の顔認証ソリューションを入館ゲートや各部屋の入口に設置することで、その後の新型コロナウイルスの感染拡大対策にも素早く対応できたという。
東京建物が導入した顔認証システムは、ソフトバンクの子会社の日本コンピュータビジョン(JCV)が提供する「SensePass」だ。JCVは顔の検知・認証処理を行う顔認証デバイス(一体型専用端末とアプリケーション型)とデータベースの管理・認証処理を行う管理プラットフォームで構成されるソリューションを提供している。
このソリューションは、顔写真を1枚登録するだけで高速・高精度な1対N認証と生体検知をおこなうもの。JCVのAI顔認証は、認証速度が0.3秒以内(距離 2.0m以内)、認証精度は99%以上というもので、世界トップレベルを誇る。
東京建物の移転計画は、東京駅近辺の八重洲・日本橋・京橋エリア再開発にともなうものだ。2020年の5月に移転は完了した。移転にともない、社内のセキュリティシステムを一新し、以前のIDカードによる入室をすべて顔認証に変えた。
顔認証に変えるにあたって、国内のメーカーをはじめ数社のシステムを比較検討していたが、JCVの担当営業の岡田泰幸氏が訪問し提案をしたところ、即決となった。決め手になったのは、同社製品の「生体認証」の精度だ。
通常、顔認識だと認証するポイントが少なく、たとえば、平面的な印刷物や写真をかざしても認識してしまうために、なりすましが可能だ。「実験的に社員の写真をかざして試したところ、多くの製品ではドアが開いてしまいました。マスクをしていると認識しない製品も多かった」。こう語るのは、同じく導入プロジェクトに加わったビル事業企画部の佐世貴志氏だ。
ストレスのないオフィス環境をめざして
本社移転の前から、東京建物は全社的に働き方改革に取り組み、オフィスでもフリーアドレスを採用していた。社内の共用スペースや会議室、役員室への移動には社員用IDカードで入室することが社員にとっては煩雑だった。IDカードは、一見安全なようでいて、紛失や盗難のリスクがある。またカードの貸し借りによるなりすましも生じる。社員が持参を忘れた時には、入室ができない。社員へのカードの発行や管理をおこなうスタッフの業務も重い。
ビルディング事業を営む同社だけに、ストレスフリーな仕事空間を実現することは、重要テーマだ。そのため、「高速で認証できること、機器の前で立ち止まったり、回り込んだりしなくても、ハンズフリーで通り抜けるだけで認証する」という特長は重要だった。
当初懸念された社員からの心配の声はまったく無く、導入は歓迎された。その理由は社員に改めて顔写真登録を強制する必要がなかったことも大きい。
「通常だと、社員の顔写真の登録をあらためて複数の角度からおこなわなければなりません。今回のシステムでは、すでに社員証などで提出されていた写真が1枚あれば認証できる。そのことで社員に余計な警戒を与えずにすみました」と佐竹氏は語る。
JCVの製品では、データベースに正面からの写真を1枚登録しておけば、顔情報の学習は不要だ。JCVのAIは、顔の数十万点のポイントから三次元で特徴量を抽出するため、たとえば10年以上前の写真であったり、撮影時からの体重や加齢の変化があっても問題なく認識されるからだ。東京建物の600数十名を超える社員の登録は、即座に完了し、まったくエラーが生じなかったという。また役員室などを訪問するVIPの登録も簡便に済ますことができた。