FinOpsが生まれた背景
今日においては多くの企業がクラウドファーストを実践し、AWSやAzure、GCPなどのパブリッククラウド(以下、クラウド)を利用するケースが増えており、日本国内におけるクラウドの利用額は年々右肩上がりに増加しているのはご承知の通りです。またGartner社の予測では2022年にはクラウド支出が3,600億ドルに達する見込みであり、米国ではIaaSへの年間支出が500億円を超えるような企業も存在しています。
クラウドは、イノベーションやアジリティを促進出来るとともに“失敗コスト”を低く抑えられるなどの利点があります。その一方で、従来のオンプレミス環境とは異なり、変動費かつOpEx(Operating Expense)主体の費用であり、従量課金による請求は秒・時間単位などとなります。
また、部門やチーム内の決裁で導入できるケースも多く、結果的にチーム間のサイロ化が起きやすい状況を生み出すこともあります。加えて、クラウドリソースの消費量が刻々と変化し、将来発生するコストが予測しづらいなど、従来とは異なる面が多々あるため新たなオペレーティングモデルが求められているのです。
FinOpsとは?
そのような背景もあり登場した“FinOps”は「システム」「ベストプラクティス」「カルチャー」で構成された、クラウドのための新しいオペレーティングモデルです。立場や役割が異なる「経営層」「ファイナンス」「エンジニア」「ビジネス部門」などのステークホルダー間の協力関係を醸成し、「スピード」「コスト」「品質」間のトレードオフを行うことで、ユニットエコノミクス[※1]を改善。これにより、他社との競争力の向上をもたらします。
つまりFinOpsはコスト削減だけに焦点が当てられたものではなく、「収益の増加」「顧客基盤の拡大」「製品や機能のリリーススピードの向上」といったビジネス価値を向上させるものなのです。
[※1] ユニットエコノミクス:直訳するとユニット単位での事業の経済性を測定する管理手法です。売上高や会員数などのビジネス指標あたりのクラウドコスト(例:1会員あたりにかかるクラウドコスト)を測定した値であり、これを用いることで会話のレベルが「いくら消費したか?」から「効率性やクラウド利用の価値」にシフトします。
一方で、FinOpsを導入しない場合の影響は何でしょうか? 以下は「Cost Management in the Cloud Age(回答者数=451)」[※2]の調査結果の抜粋です。
- クラウドファイナンス管理の不備がビジネスに悪影響を及ぼした=回答割合 80%
- 予算を超過した=回答割合 85%
- クラウドのコスト管理が日々の悩みになっている=回答割合 57%
スピードとイノベーションを重視しているとクラウドコストは高騰しがちです。その結果、企業は支出を抑制し、イノベーションが損なわれ、結果的に企業の競争力が低下する危険性があります。このような点からもビジネスとコストの両面での課題を解決する、あるいは将来生じる課題を回避するためには、クラウドに適した新たなオペレーティングモデルが必要であることをご理解いただけたかと思います。
[※2] 「CLOUD MANAGEMENT REPORT 2017」(CloudCheckr)