実践企業にも悩み、DevOpsツールが散在する現状も
こうしたプロセス改善活動に長く取り組んでいる企業も多く、既に成果を上げている例もあるだろう。しかし、その過程でいくつかの課題に直面し、思っていたような成果を上げられていないケースも少なくないと村上氏は語る。
「DevOpsを支援するためのITツール、たとえばチケット管理ツールやソースコード管理ツール、CIツール、CDツール、セキュリティスキャンツールなどを個別に導入し、これらを組織や部門ごと独自にインテグレーションして運用しているケースが多く見受けられます。このようなアプローチは当たり前のように行われていたのですが、いくつかの点で問題があります」
たとえば、DevOpsは前述した通り、開発プロセスのバリューストリームについて共通のKPIで可視化・定量化して課題を抽出しながら、継続的にプロセスを改善していく取り組みである。つまり、個々の活動を可視化・定量化するツールがバラバラだとKPIもバラつき、共通指標の下でプロセスを客観的に評価することが難しくなってしまう。
また、バリューストリームを最適化するためには、部門の垣根を超えたコラボレーションも必要になる。これをスムーズに行うためには部門間で同じKPIを共有し、客観的な指標を基に議論を交わせる土台が必要だ。ツールとKPIがバラバラな状態では、部門間のコラボレーションも円滑に進まない。
さらに作業の受け渡しにおいても、各工程のツールやKPIが異なっていると工程をまたいだプロセス最適化がうまく進まなかったり、最悪の場合はデータの不一致によって品質に大きな支障が出たりする可能性もある。
こうした課題を解決するためには、工程や部門ごとにDevOpsツールをバラバラに導入・運用するのではなく、プロセス全体にわたって共通のデータとインタフェースを共有できる「DevOpsツールのプラットフォーム化」を指向する必要があると村上氏。
現在多くの企業が同様の課題意識を共有しており、米ガートナーが2022年に行った調査によると「ツールチェーンの統合を望んでいる組織の割合」は69%、「DevOpsプラットフォームを使用している、または今年使用する予定である」と答えた企業は75%、そして「2024年までに、複数のポイントソリューションからバリューストリームデリバリープラットフォームに切り替える」と答えた企業は60%にも上っているという。
単一の「DevOpsプラットフォーム」による一元管理、その効力とは
DevOpsプラットフォームを導入することで得られる具体的な効果について、村上氏は次のように説明する。
「これまではプロジェクトの進捗会議やレビュー会などを開催するたびに、進捗や品質などに関する情報、たとえば設計資料やソースコード、テスト結果、メール、チャットツールで交わされた議論などを各ツールから人手でかき集める必要がありました。しかし、DevOpsプラットフォームを導入すれば、プロジェクトに関連するあらゆる情報が1ヵ所に集約されるだけでなく互いに関連づけて管理されているため、必要な情報を即座に参照することができます」
人手で資料や情報を集め、整理するような「付加価値を生まない作業時間」を減らした分だけ「付加価値を生む作業時間」を増やすことにより、システムのリリース頻度や品質を上げていくための活動により専念できるようになるだろう。GitLabでは、まさにこれを実現するためのDevOpsプラットフォーム製品を開発・提供しており、単一プラットフォーム上でDevOpsに必要とされるあらゆる機能をカバーできると村上氏は自信をみせる。
たとえば、プロジェクト内に新機能の実装に関するスケジュールを策定し、そこからタスクを分割し定義していくことで、実際のソースコードの変更を行うマージリクエストを作成でき、変更に対するレビューや議論、自動テスト結果、新規脆弱性の作り込み有無などが自動的にまとめられて管理される。分割したタスクの完了具合によって策定したスケジュールに対する進捗も自動で算出されるという。
また、各プロジェクトメンバーの役割に最適化されたインタフェースが標準で備わっている点も特長の一つだ。たとえば、開発者には今どのメンバーがどのタスクに取り組んでいてどのような状況なのかを把握できる“カンバン”などの画面が提供される一方で、プロジェクトマネジャーにはプロジェクト全体の進捗状況を一目で把握できる画面が用意されている。他にも生産管理部門には各プロセスで要した作業時間を把握するためのダッシュボードが提供されるという。
最後に村上氏は、「GitLabでは、こうしたDevOpsプラットフォームの機能をさらに使いやすくするためにAIの導入を進めています。具体的には、AIを使ってコードやCIパイプラインを自動生成したり、セキュリティスキャンで発見された脆弱性をAIで自動修復したりする機能実装を考えています。今後も日本企業のDXをDevOpsの側面から支援すべく、製品の改善を続けていきます」と展望を述べて締めくくった。
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