SMBC流「攻めのDX」人材確保で変化した組織文化
井無田仲氏(以下、井無田):三井住友銀行に入行以来、法人業務・人事・経営企画・総務などに従事され、IT戦略室(当時)の部長としてご活躍、2023年より執行役専務 グループCDIOを務めていらっしゃいます。まずは、SMBCグループ全体のDXを牽引してきた磯和さんのご経歴を教えてください。
磯和啓雄氏(以下、磯和):1990年の入行以来、バンカーらしいキャリアを送ってきたと思っています。法人業務からキャリアをスタートさせ、最も長く従事した業務は本部のコーポレート部門です。その際、経営企画部、法務部、人事部の副部長などを経験しました。2015年よりIT戦略室の部長を務め、以来SMBCグループのDX化を進めてきました。
井無田:事業成長のための「攻めのDX」と、生産性向上のための「守りのDX」、DXには2つの側面があると考えていますが、どのようにバランスを取ってこられましたか。
磯和:弊社では組織を分けています。「攻めのDX」は私が率いるデジタル戦略部で、「守りのDX」は業務改革室が指揮を執ります。どちらの組織もスタートアップと協業しますから、積極的に情報を共有する間柄です。
井無田:攻めのDXを牽引するポストに就任され、まずどんな業務に取り組みましたか。私も新卒で入行していることもあり、保守的なイメージのある“銀行”という組織で新しいことに取り組むとなると、並々ならぬ苦労があったのではとお察しします。
磯和:着任後、最初の取り組みとして、オンライン金融管理サービス「Olive」の前身である「SMBCダイレクト」のリニューアルが決まっていました。「SMBCダイレクト」のアプリは、アプリと言えど、タップするとブラウザにとぶ仕様。改良の余地があることはわかりますが、私自身にリテール部門の経験もなければ、どうやってアプリを作るのかもわからないという状態でしたね。
実は、SMBCダイレクトには思い入れがあったのです。なぜなら、コーポレート部門の法務部に在籍した際、私が作ったセキュリティシステムが10年経ってもそのまま使われていたからです。
ただし世間には生体認証システムが定着していたにも関わらず、UIやセキュリティシステムは10年前から進化がない。これはまずい、と人材を増やすことから始めて、1年で数名から10倍近くの組織にしました。
井無田:1年で10倍はすごいですね。専門外であるにもかかわらず、そのスピードでチームを作るには相当ご苦労されたのではないかと想像するのですが、人員はどのように確保されたのでしょうか。
磯和:立ち上げ当初、IT戦略室に招集されたのは銀行員。その他のメンバーは協力会社から出向や委託契約という形で在籍してもらいました。新しい風を他の部署の方々にも感じてもらうため、専門知識を備えた人材をIT戦略室に迎え、一緒に仕事をすることを重視しました。
ちなみに、弊行の「ドレスコードフリー」というカルチャーが生まれるきっかけとなったのは、この外部から来たメンバーの影響です。外部から来たメンバーから「スーツやネクタイは必須ですか」と言われ、たしかに彼らの業務にスーツは必要ないな、と。当然、IT戦略室のドレスコードフリー化は行内から猛反対されました。しかし、社長に掛け合ってOKをいただいた瞬間から、行内はドレスコードフリー“OK”のムードになったのです(笑)。
井無田:従来の組織文化を覆すほどのパワーをもって、御行のDXを推進されてきた。大企業の中での大胆かつスピーディーな事業展開も腑に落ちます。