技術オリエンテッドな世界でも、これからは「顧客接点」が鍵になる
東洋エンジニアリングのDXoT推進部は、2019年に社長直轄組織として立ち上がった組織だ。設計、調達、建設や管理系など、様々な部門から抜てきされたメンバーで構成されている。部長の瀬尾氏は、「それ以前のデジタル活用推進は、当初は有志によるボランティア的な活動にとどまっていました。しかし、それでは組織変革を起こすほどのスケールにならないという理由から、DXoT推進部の立ち上げに至りました。主な役割は、まずDXにおける中期経営戦略の構築と、“イネーブラー”としての戦略づくりです。現場層を動かしやすい環境づくりに向け、トップとのコミュニケーションを経て承認やサポートを得るなどの活動もしています」と説明する。
同部で、中期計画や戦略達成に向けた新たなデータセントリックなビジネスプロセスの構築、そしてそれを実現させるシステム開発の全体統括を担当している森氏は、「これまでに35のアプリケーションを統合しましたが、エンジニアリング、サプライチェーン、工事など領域が多岐にわたっており、関係者の数も多いため、ベクトル合わせが非常に難しいです。そこに注意を払いながら、中期計画達成に向けたシステム改革全体のマネジメントを行っています」と話す。
プラントというものは、ひとたび事故が発生すれば地域に多大な影響を与える恐れがある。そのため、従業員の経験と実績が鍵を握るとして重視されているほか、顧客からは数百億から数千億円の投資に見合う高い信頼性が求められている。
加えて、ここ十数年ほどで起こった事業環境の変化から、日本のプラントエンジニアリング業界全体がビジネスモデルの転換に迫られてきた。その事業環境の変化とは、グローバルにおけるコスト面での優位性の喪失だ。
従来、日本のプラントエンジニアリング企業は、主に設計から工事までを一括で請け負うターンキー・ランプサム契約による、EPCビジネスを主軸にしてきた。そして、日本の企業は高いコスト競争力をもって案件を受注できるとして、グローバルで非常に優位な状況にあった時代が長く続いていた。しかし、次第に韓国や中国などの新勢力が台頭してくると、その優位性が失われていったという。こうした背景から、単なるEPCビジネスではグローバル競争で勝つことが難しくなっていった。
東洋エンジニアリングは、この競争で他社と差別化を図るべく、DXによる顧客接点の強化と付加価値の向上に注力している。一括請負のビジネスモデルは顧客に手間をかけずに済むことが利点だが、どうしても顧客接点は少なくなりがちだ。そこで、建設プロジェクトにおけるサービスの質や、顧客が安心してプロジェクトに参加できる情報共有の質(透明性)の向上に取り組んだりしている。プラントは数年かけて建設した後、10年、20年と長い間運転するものだ。よって、顧客接点を増やし体験の質を向上させることで、引き渡し後の運転保守などといった新たなビジネスへの発展が期待できる。
瀬尾氏は、配管エンジニアとしてキャリアをスタートし、設計、解析、プラント引渡しマネージャーなどを歴任。社会人12年目には、ビジネススクールのMBAコースで学んだ。こうしたキャリアの中で、顧客との良好な関係構築やアプローチ、交渉によってプロジェクトの難易度が驚くほど大きく変化することを幾度も実感してきたという。そして、その経験を現場の有志に伝える活動を行っていたところ、その活動が上層部の耳に入り、DXoT推進部の部長に任命された。技術オリエンテッドな経歴を持ちながらも顧客との関係性を重視する姿勢が、会社の方針と合致していたのだ。