真の「AI先行者」と呼ぶにふさわしい組織とは?
『IDC Data and AI Pulse: Asia Pacific 2024』概要
- 実施時期:2024年6月
- 調査対象:アジア太平洋地域の8つの市場(オーストラリア、中国、インド、日本、韓国、マレーシア、シンガポール、タイ)の経営幹部509名。業種は銀行・金融、製造、政府、ヘルスケア・ライフサイエンスなど
プレスリリース:『AIゴールド・ラッシュ?アジア太平洋地域を対象とした新たな調査で、AI先行者と追従者の間の大きなギャップが明らかに』(2024年10月23日)
調査結果によれば、APAC地域でも多くの組織がAI活用の波に乗り遅れまいとキャッチアップを急いでおり、調査対象のうちほぼ半数(43%)が「今後12ヵ月以内にAI投資を20%以上増やす」計画を立てていることが判明した。
しかし、AIに多額の投資を行っているにもかかわらず、自らを「AI先行者」だと自負している企業は18%にとどまった。また、長期的な目線で変革を推進する先行者と、明確な戦略を欠いたまま見切り発車のプロジェクトを試行してしまう“追従者”との間に、依然として大きなギャップが存在している現状が浮き彫りとなった。
では、自らを「先行者」と捉えている18%は、いったいどのような組織なのか。パトリック・クスノー氏は「先行者を自称している組織の中でも、実態には多少のバラつきがある」としながらも、客観的に見たAI先行者の条件を以下のように挙げた。
- AIと倫理に関する適切なガバナンスを確立している
- 長期的な視点に立ち、戦略的な投資を継続している
- “戦略的に”AIを活用している
- データを管理するプラットフォームがしっかり整備されている
「客観的に見てみると、これらの条件を満たし、真にAI活用の先行者と呼べる組織は18%よりも少ないかもしれません。ただ、それでも他の組織に比べ、進展のスピードが非常に速いということは確かです」(クスノー氏)
日本が中国やインドに対し遅れをとっている理由
日本では、DXのムーブメントが興った時と同じように、生成AIにおいても、目的を明確に描かないままプロジェクトを進めてしまっているケースが多いとされている。この現象について、クスノー氏は「長期的な戦略の欠如が原因だ」と指摘する。AI活用を模索中の企業なら、ある程度の小規模なパイロットケースやユースケースは既に持っているが、それらが肝心の事業戦略と結びついていない場合が多いようだ。
人材不足も顕在化している。APAC全体では、35%が「AIスペシャリストの不足」を課題として挙げているが、日本に限定するとその割合は42%まで上昇する。クスノー氏は「特に日本では、AIの予測能力や解釈能力を十分に活用するために必要なスキルが不足している点が顕著になっている」と話す。
中国やインドなど、急速なテクノロジーの発展が見られる市場と日本を比べると、AIへの投資意欲や戦略への組み込み方、インフラの成熟度にそれなりの差がある。たとえば、AIへの投資割合については、中国が59%、インドが51%であるのに対し、日本は46%だ。クスノー氏は、「この差には法規制や教育の違い、さらにはスペシャリストの育成方法が影響しているのでは」と述べた。
また、日本では戦略的助言やインフラのアウトソーシングに、SI企業やコンサルティング企業を活用する傾向が強く、これがAIやデータを企業価値と結びつける際の障壁になる場合もあるという。特に、外部へ大部分のプロセスを丸投げしているような企業では、自社のビジネスに有効なテクノロジーの活用方法を見出すことは難しいだろう。
さらに、インフラの俊敏性の低さや、マネジメント層のAIリテラシー不足も課題だとクスノー氏。こうした要因が複合的に絡み合い、他国に比べてスキル不足が顕著な状況になっているとした。