金融業界に立ちはだかる「4つの壁」。これが変革を阻む中、世界ではすでに次世代への進化が加速している。日本も「特殊だから」という言い訳は通用しない時代だ。nCinoは、1960年代トヨタの生産プロセスをヒントに、さらに生成AIを活用して日本の金融機関に新たな可能性を切り拓いている。2024年開催の「nCino Summit」では、全世界1800社以上との協働経験から得た融資業務改革の価値と、生成AIによる業務効率化や継続的な変革の重要性が語られた。本記事では、その革新と日本市場への影響を詳しく解説する。
金融ITの未来を阻む「4つの壁」とその突破口

2020年11月に日本法人が本格的に始動してから約4年。米国、カナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランドのトップ金融機関への採用実績があるnCinoだが、日本では全くのゼロからのスタートになった。5年目を迎えた2024年11月時点で、約10行が採用を決め、それぞれが融資業務の変革に取り組んでいる。国内でアプローチできていない金融機関は一行もないという。基調講演の冒頭、野村逸紀氏は「日本の金融機関が抱える構造的な課題解決にnCinoは貢献できると確信した」と述べた。
続いて登壇したピエール・ノーデ氏は、「世界の金融機関は『身動きの取れないレガシーIT』『プロセスとデータの分断』『部分最適のプロジェクト』『人材の維持と確保』という4つの共通課題を抱えている」と指摘し、「日本は特殊だから(変革は困難だ)」という意見に異を唱えた。この言葉の背景には、nCinoが多くの金融機関の導入をサポートしてきた経験がある。
どの銀行でも、導入前の融資のプロセスは複数のシステムが支えている。行員は同じ内容をシステムごとに入力しなくてはならないのは日常茶飯事だ。プロセスの途中では、紙のドキュメントやExcelのチェックリストも多用する。さらに、既存システムは、プロセスの全体最適化の視点で構築されたものではない。特に、少子高齢化に苦しむ日本の場合、優秀な人材の獲得は、他国と比べてさらに困難になってきた。
この現状を踏まえ、ノーデ氏は、「法人」「住宅ローン」「個人」の3つの領域それぞれで、「口座開設」「融資稟議」「ポートフォリオ管理」のプロセスの見直しを提案した。3つの中でも、法人顧客とのカスタマージャーニーは複雑である。融資にあたり、相手先の取締役会の体制はどうか。反社会的な組織ではないか。信用力はどの程度あるのか。財務諸表から健全性や成長性などが確認できるか。その後の返済状況はどうか。全ての顧客の状況を一元的に把握できる仕組みを必要としている。法人のカスタマージャーニーとは異なるものの、住宅ローンや個人の場合も、迅速なサービス提供ができる仕組みが必要だ。
そこで、nCinoは一連のプロセスを一気通貫で実行できるシステムをSalesforceのプラットフォーム上に構築した。前述の4つの共通課題を解決するため、「nCinoを導入した金融機関は、顧客満足度と行員満足度の両方を高めることに成功している」とノーデ氏は語った。

この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア