データ統合・業務効率化・組織変革──各社のBizOps実践事例
マネーフォワード:顧客データ統合への挑戦
マネーフォワードで横断型組織として「BizOps本部」が正式に設立されたのは2021年。しかし、その準備段階となる2019年頃はデータ管理に関してはまだまだ混沌とした状態だった。当時、多くの事業部ごとに独自運用されていたSalesforceには同じ顧客情報が複数登録されている状態だったと同社の荒井喬碩氏は言う。
「電話番号もメールアドレスもバラバラ。同じ会社なのに違う名称で登録されていて、『これ、本当に同じお客様だよね?』って確認しないといけない状況でした(笑)。さらに課金モデルや決済方法も事業部ごとに異なり、その数は30種類以上。本当にカオスだったんです」と荒井氏は当時を振り返る。
この混乱した状況を打破するため、荒井氏は「Revenue Operation(収益オペレーション)」と「Business Operation(ビジネスオペレーション)」という二つの軸による全体最適化に取り組んだ。営業・マーケティング・バックオフィスなど各部門間の橋渡し役となり、それぞれの意見やデータを統合することで、一貫性ある顧客管理体制を築いた。

「『THE MODEL(ザ・モデル)』に基づいた体制をとっていたのですが、職能ごとにサイロ化しがちだったのです。そこで『全体最適』とのバランスを調整しようとしました。例えば、プロダクトの課金などについては、そこでマーケティング、インサイドセールス、バックオフィスなど各部門間の橋渡しを行い意見を調整したのです」(荒井氏)
jinjer:Salesforce導入で業務改革
クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を提供するjinjerでは、新卒入社後すぐSalesforce導入プロジェクトに関わった寺出岳大氏が中心となり、ゼロから基盤整備を進めた。当時、多様なSFAツールやエクセルベースで顧客情報管理がおこなわれ、それぞれ部署ごとに異なる運用方法が採用されていた。
「締め作業だけでも夜遅くまで残業していました。営業担当者ごとに数字計算方法すら違うので、一元管理なんて夢物語でした。でもSalesforce導入後は数字管理も一元化され、生産性向上につながりました」と寺出氏は語る。
しかし、このプロジェクトには現場からの抵抗感という壁もあった。「Excel慣れしている営業担当者たちには、新しいシステムへの移行そのものが大きなストレスだった」と彼は振り返る。それでも短期的メリット──例えば締め作業時間や案件状況の確認時間の短縮──を強調しながら地道な説明を続けた結果、徐々に現場との摩擦は減少していったという。

急成長企業×BizOps:1500人規模のデータ管理改革

BizOps協会代表理事の祖川慎治氏は、急成長したHR Techベンチャー企業でBizOpsを推進してきた。200名規模だった従業員数が急激に増加し1,500名規模へ。その過程で祖川氏は横断的改善チーム「BPR(Business Process Reengineering)部」を立ち上げた。しかし、その過程では膨大なデータ整理という難題にも直面した。
「1オブジェクトに項目数400以上、オブジェクト85個……正直、一度全部捨てたいくらいでした(笑)。それでも少しずつ整理していけば道筋は見えてきます」と祖川氏は語る。
また現場との摩擦についても、「短期的な不便さより長期的メリット」を根気よく説明することで克服したという。「最終的には『この仕組みならもっと楽になる』と思ってもらえるところまで持っていくこと。それしかありませんでした」と祖川氏は振り返る
Salesforce活用課題 ツール導入とデータ管理:統合か分割か?
共通の課題としては、BizOpsの基盤となるデータの統合と整備がある。Salesforceは多くの企業で採用されている。しかし、その導入・運用には共通して克服すべきハードルがある。荒井氏によれば、「基本的には1インスタンス運用。ただ、お客様層やビジネスモデルによって分割したほうが良い場合もあります」という。一方、寺出氏は、「標準機能だけで最大限効果を引き出すことに集中し、高度なカスタマイズには手を出さない方針」だとし、メンテナンスコスト削減にも成功しているという。
祖川氏の場合、大量データ整理という課題感からスタートした。「複雑さを増やせば増やすほど管理コストが跳ね上がります。本当に必要な項目だけ残して不要なものは削除しました」と振り返った。