生成AIは「幻滅期」に? 国産LLMに残された“次の弾”
とはいえ、国産LLMが国内ニーズにしか目を向けず、海外市場から距離を置いていると、いわゆる「ガラパゴス化」してしまい、国際競争から取り残されてしまう。小林氏は「生成AIはこれから国際的に広く使われていく技術ですから、日本企業向けのニッチな市場だけに注力していては技術的な競争力を失ってしまうだけでなく、国際的なルール作りの枠組みの中で国としての発言力も低下します。そうならないためにも、コストや性能でグローバルに勝負できることが必須となります」と指摘する。
確かに、LLM開発競争の第1ラウンドは海外のビッグテック企業の先行を許したものの、生成AIを取り巻く環境は日々大きく変わっている。第2ラウンド以降は環境の変化に素早く追随することで、国産LLMの勝ち筋も見出せるのではないかと同氏は指摘する。
「生成AIが登場した当初は大きな驚きをもって迎えられ、『世界が大きく変わる!』『世の中の大半の仕事が不要になる!』と大いに騒がれました。しかし、実際に業務に取り入れてみた結果、そこまで劇的な変化を起こすのは難しいということが徐々に分かってきました。実態として、大半の企業がまだ生成AIを使いこなせていません。今後は、業務効率向上やビジネスモデル変革のために真に役立つ技術を、各ベンダーが模索していくことになると思います。現在注目を集めているAIエージェントなどはその代表例といえるでしょう」(小林氏)

現在多くの国産LLMが強みとして打ち出している日本語処理能力の高さについては、「海外ベンダーのLLMと比べたときにどれほどの強みを発揮できるのか。OpenAIなどの海外ベンダーも日本に拠点を設けて投資を積極的に行う方針を打ち出している中、日本ローカルで開発されたLLMがどの程度の広がりを見せることができるのか。率直に言って未知数だと思います」と小林氏は分析する。
これまで先行してきた海外製LLMでさえも、現実のビジネスシーンにおいて当初騒がれたほどの成果を生んでいるとは言い難い。パラメータ数を増やしていくことで性能が上がっていく「スケーリング則」も、インターネット上のデータを学習し尽くしてしまうことや性能向上レベルの鈍化などによって頭打ちになるのではないかとの説もささやかれ始めている。
そんな中、海外大手企業の間ではAGI(汎用人工知能)の開発競争など覇権争いが続くとみられるが、今後は規模の強みだけではなく、エージェントの実現や推論能力のさらなる精度向上、業界・業務特化型の開発、マルチモーダル化などにも重点がシフトしていく可能性がある。小林氏も「こうした変革期を迎えるに当たって、日本のAIベンダーも規模以外の面に注力することで新たな強みを発揮できる可能性が出てきます」と指摘する。