AI時代に求められる「重要なスキル」
ネットワークエンジニアには、先述したようなAIに関する知見だけでなく、「データリテラシー」も求められています。AIドリブン型ネットワークシステムは、パフォーマンス指標から異常レポートまで、膨大なデータを生成します。そのためネットワークエンジニアには、こうした情報を解釈するだけでなく、AIが生成する洞察を検証し、自社の目標に即した形で推奨事項を実行する能力が欠かせません。たとえば、レイテンシーに関する根本原因を特定する場合、トラフィック最適化に関するAIによる提案の有効性を評価する場合などには、技術的な見識とデータの活用能力を組みあわせる必要があります。
また、さまざまなベンダーが提供する、AIを活用したプラットフォームに精通していることも重要です。AIを活用したシステムには、自己修復機能、リアルタイム監視、動的最適化などの機能が一般的です。ネットワークエンジニアは、こうしたシステムの運用および連携方法を理解することで、正確な結果を提供しなければなりません。
さらに“適応能力”も重要なスキルでしょう。ベンダー各社が旧世代のAI/MLシステムから、より複雑で自律的なプラットフォームへと移行する中、AIテクノロジーは急速に進化しています。その状況下、ネットワークエンジニアには、変化に適応して成果を上げ続けるための「継続的なスキルアップ」が欠かせません。具体的には、最新技術の学習やベストプラクティスに関する継続的な情報収集、問題解決に向けたプロアクティブなアプローチの開発などです。
加えて、ITリーダーにとって継続的な学習と開発の機会を提供することは、自社のチームをAIに対応させる上で必須だと言えます。AIの規制やベストプラクティスが急速に進化する中、AIを責任をもって活用するための明確な指針をCIOや技術リーダーチームに求める傾向は、今後も高まっていくでしょう。
AI導入におけるネットワークエンジニアリングの課題
先述したようにAIは大きな可能性を秘めていますが、ネットワークエンジニアリングのワークフローに統合していくには、いくつかの課題が残っています。そこには技術的な障壁だけでなく、規制やセキュリティ、文化、人材に関連する課題も含まれます。
そのうち最も差し迫った懸念の1つが「安全性」です。AIシステムは堅牢ですが、絶対ではありません。たとえば、AIが不正確あるいは誤解を招く出力を生成するハルシネーションは、構成ミスや脆弱性へとつながる可能性があるでしょう。適切に監視せず、過度にAIに依存してしまうと、こうしたリスクが増幅する可能性があります。こうした問題を軽減するためには、常に最新情報を共有しながらAIを検証し、必要に応じて介入できる環境を整える必要があるのです。
特に日本では、規制への対応も重要な課題となっています。たとえば、個人情報保護法(APPI)は、データの収集・処理・保存方法について厳格な要件を課しており、ネットワークエンジニアはAIシステムをデータ保護法に準拠させながらも、その運用効率を維持しなければなりません。また、AIによる自社の機密情報の取り扱いを深く理解するためには、コンプライアンスチームや法務部との連携も必要になることがよくあります。
さらに人材不足は、AIの採用をより複雑にしています。AIに対応したネットワーク管理スキルの需要は高い反面、多くのエンジニアが正式なトレーニングを受けていません。とはいえ、プロフェッショナル人材の採用は困難であり、既存チームのリスキリングには時間とリソースが必要です。経営陣にとって、この課題を乗り越えることは明確な義務であり、トレーニングプロバイダーなどとパートナーシップを構築し、いち早く“スキルの溝”を埋める必要があります。
加えて、AI人材を必要に応じてアウトソーシングできる専門職とみなすのではなく、社内で育成し、継続的なビジネス価値を生み出す人材として位置づけることも重要です。AIの専門知識を社内に蓄積することで、外部ベンダーへの依存を減らし、業務の独立性と長期的な投資収益率(ROI)を向上させ、データドリブンな企業文化への移行を加速していくのです。
ここでレガシーインフラストラクチャにも触れておきます。多くの企業におけるシステムは、AIドリブンなワークフローの需要に対応できるように設計されていません。最近の調査によると回答者の半数近くは、AIの導入当初に帯域幅に関する課題を経験しています。つまり、AIに対応した最新のインフラストラクチャにアップグレードすることは、コストが高く混乱をともなう可能性もありますが、AIのメリットを最大限に引き出すため必要なことだという認識を持たなければいけません。