「Don't DIY」が警告する自作システムの限界
ここで、「パッケージに合わせて業務を変える」ということの本質を改めて整理しておきます。それは、Salesforceなどパッケージ機能を利用しろということでもなければ、目指すプロセスが実現できるなら標準でもカスタムでも手段はなんでもいい、という話でもどちらでもありません。
筆者自身、過去にはSalesforceが標準で提供する商談機能を使わず、そのライセンス費用が高いからと自作した経験があります。初期コストが少しかかるだけで、ただデータを管理する画面とデータベースを揃えるだけであれば、技術的にもあまり難しいことではないと感じたからです。
すると、商談管理のプロセスが一定システム化できた頃、受注を伸ばすためには集客に関するシステムの課題が出てきたのです。Salesforceは、マーケティングからサポートまでカバーする機能を2010年代から持っていましたから、標準機能を使っていればすぐに拡張することができました。
しかし、商談管理部分をカスタムしてしまっているので、隣のキャンペーンの仕組みも自作する羽目になり、データの受け渡しも連携開発になり・・・と結果的にシステムを用意するだけのために時間もコストもかけることになりました。
本来は、キャンペーンの管理を通じて、ROIの高い施策を見つけたり、施策に反応した見込み客を少ないリードタイムで追客して商談機会を得るなど、システムを用意することよりも、その後に展開するPDCAの方が重要だった訳です。システムを機能で捉え、ビジネスプロセスの視点で捉えなかったことが原因です。

「Don't DIY Your AI」――Salesforce社が昨年から度々打ち出しているこのメッセージの中にも同様の課題意識への示唆が込められています。これは、単純な内製批判でも、カスタム批判でも、ポジショントークでもないように思います。
AIのような新しい技術にしろ、すでに利用中のシステム改善にしろ、ビジネスへの投資である以上は価値を創出し、そのタイミングを早めていくことが重要です。
そのためにも、テクノロジーを点で取り入れるのではなく、いかにそれを活用できる自社の業務構造や情報資産をつくり差別化していくのか?そして、そのために自社にはどんな基盤が必要で、何を外部のマネージドなサービスを活用するのか?自社は何に注力をするのか?
このテーマ自体は、生成AI時代に生まれた問いではなく、テクノロジーと経営を考える上ではこれまで同様、普遍的で重要な、向き合うべき問いであると言えるでしょう。
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佐伯 葉介(サエキヨウスケ)
株式会社ユークリッド代表。SCSK、フレクト、セールスフォース・ジャパンを経て、2019年にリゾルバを創業。2023年にミガロホールディングス(東証プライム)へ売却。著書『成果を生み出すためのSalesforce運用ガイド』(技術評論社)。一般社団法人BizOps協会エキスパート。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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