なぜ「データありき」の発想が失敗を招くのか?
先ほど例に挙げたようなシステムは何故生まれてしまうのでしょうか?その理由は「データは価値なんて生まない」「データに期待なんてしていない」という点が挙げられます。誤解がないように付け加えると、これには「当初は」や「ある人の視点では」といった枕詞がつきます。
企業の文化や価値観は様々ですが、企業のフェーズや、データ・CRMシステムに関わる人の立場によって大きく3つの圧力が構造的にかかります。

データ基盤に限らず、基盤を整備するというのは中長期を見据えたインフラ投資です。「データの名寄せや、システムのリファクタリング、高い外部サービスの購入に予算や工数をかけるくらいなら、1件でも多く商談をとってきてほしい」と思う人は必ず存在します。
また、顧客データがあるから商品が売れるわけではなく、商品を売ろうと活動し、販売していく過程で重要な顧客データが蓄積されていきます。データが価値を生むのではなく、活動や事業成果を通して価値のあるデータが生まれるという順番です。
そして、個別最適と全体最適の対立は、組織設計やプロセス設計にも起因します。プロセス別組織だと、アポ数を追う組織・受注を追う組織が別々に存在する場合、互いの欲しい顧客データの質や量は異なります。先ほどの例のように、エリアや事業ごとに縦割りの組織がある場合、自組織のパフォーマンスに目がいきがちで、全体最適の施策は足を引っ張られるようにしか見えないのも理解できます。
それぞれ、短期的・足元・個別の成果は重要である前提を持ちながら中期的に追いかける目標の実現可能性、その未達リスクを明確にしていく必要があるでしょう。
また、業務システムである以上は、「負債の影響」も見逃せません。企業活動にシステムを使おうとすると、ユーザである組織と従業員はそれに縛られるため、運用手順やルールが生まれます。また、システムの機能は時系列で継ぎ足しされていきます。扱うデータもユーザも増えるため、機能が増えなくても運用は複雑化します。
これらが原因で、既存の手順・ルールや現行の仕様が原因で、データの新しい活用方法や新しい戦略・戦術に対応した組織変更や業務変更が簡単に行えなくなります。ツールであるはずのシステムやデータが原因で、ツールをどうにかするための仕事が増えていくのが負債の問題です。
SalesforceをはじめとしたCRMのように、顧客接点の情報を扱うようなシステムは、データを元にして戦略やオペレーションを柔軟に変更できることが重要な価値になります。システムとしての柔軟性やカスタマイズ性は高いレベルで提供されていますが、個々のSalesforceユーザー企業独自の負債問題は、個社ごとに対処するしかありません。
無闇にデータの収集・可視化機能や、業務の自動化機能を盛り込むのではなく、期待するアウトカム(成果)と見比べて意味のあるものを残し、うまくいかないものは捨てる、というサイクルが鉄則です。

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- この記事の著者
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佐伯 葉介(サエキヨウスケ)
株式会社ユークリッド代表。SCSK、フレクト、セールスフォース・ジャパンを経て、2019年にリゾルバを創業。2023年にミガロホールディングス(東証プライム)へ売却。著書『成果を生み出すためのSalesforce運用ガイド』(技術評論社)。一般社団法人BizOps協会エキスパート。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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