ヘルスケア・エコシステムの完全自動化とAIエージェント
OracleがAIを特に活用している領域の一つが「ヘルスケア」だ。Oracleは、2022年に買収したCernerの25年以上大きな変更がなかった製品ソースコードについて、AIを活用することで、わずか3年間で書き直し、最新化する作業を進めている。これは単にコードを書き直すだけでなく、会計システムや人事(HR)システム、さらには病院向け融資を行うためのバンキングシステムに至るまで、病院運営の全体を自動化するようなアプリケーション群になる予定だ。
エリソン氏は、イーロン・マスク氏の考えに倣い、真に医療で成功するためには、病院やクリニックを自動化するだけでは不十分で、エコシステム全体を自動化しなければならないと強調した。これは電気自動車の普及に充電ネットワークの構築が不可欠であったように、医療の自動化には、患者や医療提供者、支払い者(保険者/政府)、規制当局、製薬会社、資金提供を行う銀行など、すべてのステークホルダーを含めた自動化が必要になるということだ。
このエコシステム自動化の一環として開発されたAIエージェントの一つが、医療提供者と支払い者(保険者)を結びつけるAIエージェントだ。このAIエージェントは、患者に「完全に償還可能な範囲での最善のケア」を提案することを目的している。英国の国民保健サービス(NHS)がOzempic(主に2型糖尿病の治療薬として使用される注射薬)のような高価な薬を償還しない、つまり医療保険が適用されないために代金を全額自己負担する場合があるように、最高の治療法が患者にとって手の届かないものであっては意味がないとエリソン氏は指摘した。
このAIエージェントはRAGを使用しており、最新の医学文献、患者の電子カルテ、最新の検査結果などのプライベートデータにアクセスし、医師が最適な治療法を見つけることを支援する。同時に保険会社のルール、政府の規制、医療補助制度など、あらゆる償還ルールも参照することで、AIエージェントはデータを総合的に推論。例外規定まで考慮に入れた、「最も質の高いケア」と「最も高い償還レベル」を両立させる提案をしてくれる。
さらに、このAIエージェントは病院の資金繰り問題も解決するという。病院の未収金に関する情報を銀行に提供し、AIがこれらの未収金が償還ルールに完全に準拠していることを保証することで、銀行が未収金を担保とした融資を行えるようにする。これにより、病院は運営に必要な資金を確保でき、医師や看護師は事務作業から解放され、より多くの時間を患者のケアに費やせるようになるとエリソン氏は話す。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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