「野村HD vs 日本IBM」の裁判から考えるベンダーのシステム完成責任、分割契約の場合はどうなる?
野村ホールディングス/日本アイ・ビー・エム 裁判考察:前編
発注側のビジネス目標はベンダー側の「債務」になるのか?
東京高等裁判所 令和3年4月21日判決
本件各個別契約においては、本件システムを完成して稼働させることや、その履行期限を平成25年1月4日とすることは、IBMの債務の内容として合意されていなかったものというべきである。
(中略)
本件開発業務や本件各個別契約の締結が、平成25年1月4日に本件システムを(中略)稼働開始することをビジネス上の目標として行われたことは、容易に推認することができる。(中略)しかしながら、ビジネス上の目標が重要であるからといって、ビジネス上の目標がそのまま契約上の債務として合意されるとは限らない。
出典:裁判所ウェブ 事件番号 平成31(ネ)1616 損害賠償,報酬等反訴請求控訴事件
判決はご覧のとおりでした。もちろん、こうした判断はケースバイケースですから、すべてがこうなるわけではないと思いますが、「個別契約を多段階に結んだだけでは、システム全体の完成責任をベンダーに負わせることはできない」という判断でした。そして両者が合意したという「ビジネス目標」は、必要とあらば変更できるものであり、少なくとも本件においては「ビジネス目標を共有していた」というだけでは、ベンダーに完成責任を負わせるには不足ということのようです。
ところで、「ビジネス目標」と混同しがちな言葉として「システム化の目的」というものがあります。これは請負契約などでよく意識されますが、発注者がこのシステムを導入することで何を目指しているのかを明らかにしたものです。「バックオフィスの〇〇業務を効率化して人的コストを3割削減する」「営業職の新規顧客開拓数を倍にする」など、発注者側の目指すメリットを明確にしたもので、要件定義書、RFP、プロジェクト計画書、契約書などに記載され、発注者とベンダーが認識を共有し合意します。
過去の判例などを見ると、この「システム化の目的」については、それに資するシステムを完成させることが「仕事の完成」であり、ベンダーの債務であるとされています。役に立たないシステムを作っていても、それは専門家として仕事をしたことにはならないということでしょう(ただし、ここでいうベンダーの責任は、あくまで目的に資するシステムを完成させること、つまり目的達成に役立つであろうシステムを作ることであって、実際にコスト削減や新規顧客数増加が未達成でもベンダーの責任が問われるものではありません)。
しかしながら、今回の裁判で野村HD側が主張した「ビジネス目標」は、システムを導入する動機でもメリットでもなく、単なるスケジュールであり、しかも“目標”に過ぎません。必要とあらば変更も可能なもので、その達成をベンダーの債務とすることはできないという判断が下されました。
そして、すべての個別契約を包含するようなベンダーの債務がない以上、ベンダーは個別契約に基づいて一つひとつ仕事を完成させていけばよい、そのような判決でした。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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