AI戦略の真価は「人」と経営の連続性にある
AIをめぐっては、WorkdayがMicrosoftやSalesforce、SAP、Oracleに比べて地味に見える、との見方もある。だが、エンタープライズAI市場は、単純な先行・後行だけで測れる段階にはない。あくまでも各社の違いは、AIをどの業務に組み込み、何を競争力の中核と位置づけるかに表れている。
WorkdayがAIで変えようとしているものは、人と組織に関わる業務のあり方だ。採用、育成、人員配置、スキル把握、従業員体験といったHCM領域を中心に、財務・計画データとの接続も視野に入れながら、基幹業務に近い人材データをどう生かすかに軸足を置いている。
重要なことは、新しいAI機能をいくつ追加できるかではない。従業員データ、組織情報、評価、報酬などを扱いながら、顧客が安心して利用できる形でAIを実装できるかが問われる。特に、人事評価のようなセンシティブな領域では、回答や提案の精度に加え、利用するデータ、アクセス権限、実行履歴を追跡・監査できるガバナンスを備えられるかが競争力を左右する。
そうした意味でWorkdayのAIは、「派手さ」よりも、人に関わる基幹業務へどこまで安全に入り込み、実際の業務で使われつづけるものにできるかが勝負所となるだろう。そこでは、人事・財務の業務知識をもつ専門家と、AIエンジニアやデータサイエンティストが、製品開発から顧客導入まで緊密に協働できるかが重要となる。
その上で買収観測を考える際、AI人材の確保だけを論点にしていては不十分だ。AIと業務ドメインの双方を理解する組織を維持し、顧客の信頼を損なわずに製品へ落とし込めるかが問われる。短期的な効率化やコスト最適化を優先しすぎれば、こうした協働を維持することは難しくなるだろう。
ここで注目すべきなのが、共同創業者のアニール・ブースリ氏のCEO復帰だ。Workdayは2026年2月9日、当時チェアマンだった同氏がCEOに即時復帰し、カール・エッシェンバック氏がCEOと取締役を退任すると発表した。同社はこの人事を、急速に変化するAI時代に向けて、同氏が「次章」を率いるためのものと位置づけている。
Dellでは、非公開化後の変革を創業者のマイケル・デル氏が前面で担い、顧客や従業員に事業の連続性を示した。両社の事業構造や買収の条件を単純に重ねることはできないが、Workdayもブースリ氏が創業者としてAI戦略と企業文化を体現しながら、変革の方向性を社内外に示せるかが重要な論点となる。
当然ながら、創業者の復帰自体が成功を保証するわけではない。それでも、Workdayの価値が単なる製品群ではなく、人材、顧客との信頼、プロダクト思想、そして企業文化(Workday Way)に支えられている以上、その連続性を誰が担保するのかは避けて通れない。仮に非公開化後の再成長シナリオを描くのであれば、その成否は財務モデルだけでなく、ブースリ氏を含む経営陣がAI時代の製品、組織、顧客価値を一つの物語として示せるかにも大きく左右される。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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