記者として見てきた「Workday Way」を守れるか
Workday買収観測の成否を左右するのは、財務面の再編だけではない。非公開化後に、同社が長年培ってきた企業文化「Workday Way」をAI時代の競争力へ、どう結びつけていくのかも重要だ。
十数年にわたりカンファレンスや顧客事例を取材してきた立場からすれば、Workdayの強みは製品機能だけにあったわけではない。共同創業者のブースリ氏らが掲げてきた、従業員を尊重し、その姿勢を顧客への価値提供につなげるという考え方は、少なくとも取材を重ねる中では、組織運営や顧客との向き合い方にも表れているように見えた。
2015年に米ラスベガスで開かれた「Workday Rising」で取材した際、当時CEOだったブースリ氏は、HCMや財務・計画機能の拡張に加え、クラウドサービスを継続的に更新し、停止時間も短縮していく方針を自ら説明していた。会場には既存顧客や導入を検討する企業が集まり、製品の将来性と活用方法を真剣に見極めようとしていた。少なくとも当時、ブースリ氏は製品の進化と顧客の利用価値を結びつける役割を前面で担っていた。
HCMや財務管理は、導入後も制度や組織、業務の変化に対応しつづけることが求められる。そのため、データの正確性、制度変更への対応、障害時の復旧、利用部門への継続的な支援が欠かせない。AI機能を広げるなら、利用データや権限、実行履歴を適切に管理し、現場で定着させることも必要になる。プロダクト、サポート、顧客接点の担当者が連携する文化は、製品の品質と顧客からの信頼を支える無形資産の一つだろう。
非公開化やファンドの関与が、ただちに企業文化の破壊を意味するわけではない。短期的な市場評価から距離を置くことで、中長期の製品投資や事業再編を進めやすくなる面もある。一方、収益性や資本効率の改善が強く求められる局面では、人員、研究開発、顧客支援に“効率化”という名の圧力がかかり得る。AI・製品開発を担う人材、HCM・財務の業務知識をもつ人材、顧客との信頼を築いてきた現場の担当者は容易に代替できない。こうした領域を損なえば、短期的に数字を整えられても、製品開発の連続性や顧客対応の厚みを失うおそれがある。
やはり、ここで重要になるのはブースリ氏がCEOに復帰したことだ。仮に買収が具体化し、非公開化後の変革へ進むならば、ブースリ氏を含む経営陣がプロダクト、人材、顧客との関係をどう結び直し、変革の方向性を社内外に示せるかが問われる。
Dellの事例が示すように、買収後の変革には資本だけでなく、事業の連続性を社内外に示す経営の担い手が必要になる。WorkdayのAI戦略における差別化の源泉は、人と組織に関するデータ、業務知識、プロダクト開発力、顧客からの信頼を結びつけられるかにある。企業文化(Workday Way)を守りながら、それをAI時代の製品開発と顧客価値へ結び直せるか。さらに、ブースリ氏を含む経営陣が顧客、従業員、パートナーの納得を得ながら主導できるか。この2つが、今回の買収観測を見極める最大のポイントとなる。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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