なすべきことをなした上に幸運は舞い降りる
― 地球の引力圏外の天体に到達し、再び地球に帰還する。この世界初のミッションを「はやぶさ」が完遂したわけですが、プロジェクトの構想から度々の危機を乗り越えて帰還に至るまでの軌跡についてお話しいただけますか。
ミッションとして掲げたのは「小惑星と地球の間を往復する」という技術開発とその実証でした。他にも科学的成果としては多々ありますが、それはなかなか専門外の方々には見えにくい。とにかく「往復してくる」ことだけが明確な証になるわけです。ですから行っただけでは成功とは言えず、「あくまで地球がゴール」です。以前のプロジェクトで大きな科学的成果を得ながらも、目に見えるミッションを完遂できず、「努力しても結果がでなければダメだ」と悔しい思いをしました。幾度もの危機に見舞われながらも諦めなかったのは悔しさに基づく「ミッションへの執着」に他なりません。
「はやぶさ」プロジェクトは、世界初の挑戦でしたから、前例もなければ参考になるものもありませんでした。ここまでやれば安心というものではないわけです。手探りながら、なすべきことを完全にやり遂げて、それでも予期せぬトラブルは続々と起きてくる。小惑星「イトカワ」に到達する時点ですでに故障している部分も多く、とにかく前途多難でした。
ですから、少し遅れはしたもののイトカワに到着して、サンプル採取や画像撮影ができたときは嬉しかったですね。もちろん、最終のゴールではありませんから、気を抜くまいとは思っていましたが。
最大の危機は復路にありました。まず1つめは、2005年12 月の燃料漏れにはじまる数々のトラブルの後、通信途絶状態に陥ったことです。まさに“迷子”の状態でした。小惑星に着陸する際には衝撃を受け、何かが破損するリスクは想定していました。そこで危険物を検出するレーザーセンサの設置やエンジンの二系統化など回避策は講じていましたが、実際にはそれを上回ってしまったわけです。そこで推進剤の直接噴射というイレギュラーな手法を用いることで姿勢を制御し、通信を取り戻すことができました。
これが「自業自得の困難」なら、もう1つの2009年11月に予測されていた中和機の寿命によるエンジン停止は「予期された困難」と言えるでしょう。このときは、仕込まれていたバイパス回路が功を奏して他の中和機を接続して連動運転し、エンジンとして使用することで、なんとか推進力を得ることができました。
こうした話をすると、ちゃんとプロジェクトマネジメントできているようですが、残念ながら違います。これらのリスクは総点検の「外」なんです。バイパス接続による運転は“空焚き”を起こすのでNGとされていて、本来は対応策としては正しくないんですよ。それでもやるしかなかったし、結果としてうまくいったと。もう「ラッキーだった」「神様のおかげ」としか言いようがないんです。もちろん、神頼みができるくらい自分たちは最善を尽くしたと思えるし、その根性を出し尽くした上にこそ、幸運が降りてくるのだと実感しましたね。(次ページへ続く)