マーケティングを「作り手視点」から「消費者視点」に転換
コカ・コーラでは、自社が提供するパッケージ飲料と、携帯電話やスマートフォンは、似た立ち位置にある、と分析しているという。その理由について江端浩人氏は「何か欲求が生まれた時、それを満たす身近にある製品であり、生理的欲求は飲料、知的欲求は携帯機器が対応するという意味で」と解説した。そこでコカ・コーラは、自らのマーケティングにモバイルを活用すべきだと考えている。
実際、コカ・コーラのマーケティング戦略は変化し続けている。以前は「作り手視点」で一つの製品イメージ、一つのキャッチフレーズのアウトプット露出を最大化する「360度マーケティング」と呼ぶ手法が主流だった。ところが2000年頃から、特に若者に対してメッセージが到達しない傾向が見られるようになってきた。その要因は長期的なテレビ離れであり、同時にCMの認知率も低下した。
そこで2005年頃から世界中のコカ・コーラでインターネット関連部署が立ち上がり、マーケティングのコンセプトは「統合的マーケティング・コミュニケーション(IMC)」と呼ばれるものに変わった。消費者に伝えたいコンセプトを「ビッグアイデア」として中心に置き、それぞれの消費者の立ち位置を考えて、リーチする方法を変える。
SNS上ではコンテンツが一人歩きする
現在のコカ・コーラにおける消費者とのコミュニケーションのキーになるコンセプトは「liquid and linked」と呼ばれている。その背景に非常に大きな要素としてあるのがソーシャルメディアの登場だ。まずYouTubeを含めたソーシャルメディアは、あらゆるところに広がっていくliquid(液体)だ。液体なので、入れ物によって形が変わる。これはメディアによって見え方が変わることを意味している。
Linkedはコンテンツ同士がリンクし、同時にコカ・コーラのビッグアイデアにリンクさせるという意味だ。たとえばYouTube上でのコカ・コーラ関係の動画の再生回数は全部で1億4600万回。そのうち、コカ・コーラが提供したビデオの再生回数は2600万回。つまり、一般の人が作成したコカ・コーラ関係ビデオが、1億2000万回再生されたことになる。SNS上でコンテンツが一人歩きして様々なところに流れていくとき、元々のビッグアイデアがないがしろにされると、コカ・コーラが伝えたいメッセージが伝わらない。
Owned media(所有メディア)、 Paid media(購入メディア)、Earned media(獲得メディア)をトリプルメディアと呼ぶ。この中でEarned mediaがソーシャルメディアであり、コントロールできないという大きな特性がある。ここにコカ・コーラは、他社のブランドと一緒に露出するShared media(共有メディア)を加えて消費者とのコミュニケーションを考えている。その理由は、製品が食品スーパーの店頭などで購入されることが多く、そこでのブランディングが重要だと考えるからだ。