国内にクラウドデータセンターが相次いで開設
国内におけるパブリッククラウドのサービス基盤が急速に充実してきた。具体的に言えば、この1年で国内にクラウドのデータセンターが相次いで開設された。昨年3月には、クラウドベンダーとして最も勢いのあるAmazon Web Servicesが東京データセンターを開設。12月にはセールスフォース・ドットコムも東京データセンターの稼働を開始。既存の富士通、NEC、日立、IBMといった大手や、IIJ、ニフティ、GMOクラウド、IDCフロンティア、さくらインターネット、ソフトバンクテレコムなどの新興ベンダーもすでに国内のデータセンター環境を整えている。
クラウドの本質は、ネットワークの向こう側にあるリソースを自由に利用することであり、その意味ではデータセンターが国内にあるか、国外にあるかは大した問題ではない。しかしクラウドを利用する企業にとっては、社内の情報を物理的にどこに預けることになるのかを知ることは、クラウドの選択にとって大事な一要素である。そこには企業のセキュリティポリシーの問題、法律の問題、レイテンシーなど性能の問題も関わる。
同時に、あるクラウドベンダーの幹部はこう話す「国内にデータセンターがあるかどうかでもっとも影響が大きいのは、利用者の安心感だ」。技術的な面、法的な面を越えて、国内のクラウドデータセンターが充実してきたことで市場のマインドが変化していることは間違いない。企業にとって、クラウドをどうビジネスの道具として導入していくかが、リアリティを持った課題になってきた。
企業がクラウドを導入するメリットとは
企業にとってクラウド導入のメリットとして期待されるのは、コスト削減、迅速な調達、高い堅牢性、スケーラビリティの確保などだろう。それぞれを少し詳しく見ていこう。
コスト削減は、クラウド採用にあたり最も期待される効果だ。クラウドを利用することでどの部分がコスト削減できるかは、企業の事情により異なる。その中で、最も大胆なコスト削減となるのは、データセンターをクラウドへアウトソースすることだ。企業内のデータセンターには、当然ながら運用担当が必要となる。社内の情報部門もしくは外注業者が担当するとしても、サーバーは24時間365日動いているものだから、それに対応するような人員と体制を組まなければならない。人件費、施設、電力や回線費用などすべてを足し合わせると、大きなコストがかかるのは明らかである。
クラウドのデータセンターは、こうした一般の企業が運用するデータセンターと比べると圧倒的に効率がよい。その源泉は、データセンターの規模が桁違いなところにある。いわゆる「規模の経済」の利点を徹底的に活かしている。例えば、クラウドのデータセンターでは、たとえ数十万台のサーバーがあろうとも、運用員はたいてい数十人程度だ。つまり一人当たり数千から数万台のサーバーを見ていることになる。サーバー1台当たりにかかる人件費は非常に小さい。高効率を実現するために、徹底的な自動監視などが高い品質で行われている。また、電源、回線、サーバーやネットワーク機器なども大量調達によって低価格を実現している。
企業が抱えているデータセンターをクラウドへ移行できれば、サーバーを含む設備費用や間接費、人件費などが大幅に下がることはほぼ間違いないが、既存のデータセンターをクラウドへ移行することは、既存の施設や人員をどうするか、セキュリティポリシーをどうするか、といった課題があり企業にとってハードルの高い選択肢だ。しかし長期的に見れば、データセンターを保有し運用し続ける企業が、クラウドへ移行して低コストを実現した企業と競争し続けることは原価の面で難しくなってくるはずだ。一部の大企業やグループ企業以外では、データセンターを保有し続けることが合理的な選択肢とはならなくなってくるだろう。