昨年12月、多くの方々から望まれていたステージゲート法のバイブルであるカナダのロバート・G・クーパー教授が著した『Winning at New Products』が、私の日本語訳にて『ステージゲート法 製造業のためのイノベーション・マネジメント』(英治出版)というタイトルで出版することが出来ました。これを機会に、ステージゲート法の本質を、日本の皆さんにお届け出来ればと、本連載を始めることになりました。今回の記事では、ステージゲート法のエッセンスに触れ、日本製造業の現状、今後の取りうる方向性などを概観し、今なぜステージゲート法が日本のものづくりに必要なのかなどを解説します。
ステージゲート法をご存知ですか?今、必要とされる理由
「ステージゲート法」は、製品開発や技術開発テーマのアイデア創出から市場投入までをマネジメントする方法論です。1980年代に、カナダで開発されてから進化を重ね、今では欧米において製造業を中心に広く普及しており、米国では製造業の7割が利用しています(近年はサービス業にも使われるようになってきています)。
1990年代半ばには、日本企業でも導入が始まり、現在では100社程度が採用していると言われています。ですが、日本企業においては、私の目からは必ずしもステージゲートの本質が理解されておらず、「ステージ(開発活動)とゲート(テーマ評価ポイント)がある」という形状だけを、機械的に取り入れている例が多いと感じられます。

今、日本企業は、よく言われるように、「技術で勝って、事業で負ける」状況に陥っています。この問題に対して、ステージゲート法の本質を理解し、適切なプロセスを設計し、適正に運用することで、極めて有効な処方箋となるものです。
つまり、ステージゲート法は一般に理解されているより、遥かに大きな価値を持つ方法論なのです。
従来の「ものづくり」の限界と新たな競合企業の台頭
日本の産業人が好んで使う言葉に、「ものづくり」があります。製品製造に関わる技能や技術を重視して高品質な製品をつくりあげる、日本の製造業を表す象徴的言葉です。「ものづくり」を突き詰め洗練させることが、日本の製造業を世界のリーディング企業に押し上げる原動力となりました。
この「ものづくり」の特徴を整理してみると、以下3点があるように思えます。
- 製品の細部を重視する
- ものをつくる活動に絞り、その技術・技能を徹底して洗練させる
- 手を抜かず勤勉に実行する日本人の文化・風土の強みに基づく
この「ものづくり」の考え方は、顧客の課題が顕在化し、何を作るべきかが比較的明確であった時代には、大いに機能しました。しかし、現在の市場環境は、このような状況にはありません。そして、従来日本企業が得意としてきた分野で、海外の企業が台頭してきています。
台頭してきた海外企業の特徴は、次のようなものです。
- 市場ニーズから考える
- バリューチェーンの最適化を図る
- 世界中からベストなもの(部品・材料・技術等)を集め統合する
この流れに、日本企業はどう対処したら良いのでしょうか。あくまで従来の「ものづくり」にこだわるか。競合と同じ戦略をとるか。それとも、第三の方向か。この議論をする前に、これら海外企業の躍進の背景に何があるのかをみてみましょう。
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浪江 一公(ナミエ カズキミ)
ベクター・コンサルティング株式会社 代表取締役社長大手電機メーカー勤務の後、アーサー・D・リトル(ジャパン)(株)、(株)フュージョンアンドイノベーション等を経て、現職。テクノロジーマネジメント、事業戦略、マーケティング戦略の分野で20年以上のコンサルティング経験を持つ。日本工業大学大学院技術経営研究科客員教授(兼任)。北海道大学工学部、米国コーネル大学経営学大学院(MBA)卒【主な著書・訳書】「ステージゲート法 製造業のためのイノベーションマネジメント」(英治出版)(訳...
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