"パーソナルデータ活用"の成功例「ディズニーワールド MyMagic+」
「Walt Disney WorldのMyMagic+は、消費者の個人情報をうまく活用したサービスだ。RFIDが組み込まれたMagicBandと呼ばれるリストバンドと、Webサイトから収集したプライバシー情報をもとにして、パーソナライズしたサービスを提供している」
講演で城田氏は、ビッグデータ活用の成功事例の1つとして、フロリダ州オークランドのウォルトディズニーワールドの取り組みを説明した。MagicBandは、ホテルのルームキーやパークチケット、クレジットカード、ファストパスなどの機能を併せ持つリストバンドだ。ゲストはMagicBandを腕につけておくだけでディズニーワールドのさまざまな施設をチケットレス、キャッシュレスで利用できるようになる。このMyMagic+のユニークな点は、ゲストがWebを通じて事前に自分の情報を登録しておくと、このMagicBandで個人を識別し、個人の嗜好にあわせたサービスが受けられるようになることだ。
たとえば、自分の好きなキャラクターを登録しておくと、そのキャラクターが自分の名前を呼んでグリーティング(Happy Birthday!など)をしてくれる。また、アトラクションの登場時刻の予約や、ショーやパレードを鑑賞する場所を予約するサービス「FastPass+」の利用ができるようになる。
このサービスを実現するために、MyMagic+では、利用者のプライバシー情報を数多く収集している。たとえば、入園前には、Webを通じて入園する全員の名前、誕生日、ファストパスを利用したいアトラクション名などを収集する。また、入園後は、売店で何を買ったか、いつどのアトラクションで遊んだか、リアルタイムの位置情報、アトラクションやレストランの待ち時間、ミッキーマウスと握手したかどうかなどを収集する。
「このサービスから学ぶべきことは、個人情報をただ収集するのではなく、ゲストにそれ以上のメリットを提供していることだ。また非常に重要なこととして、サービスを開始するにあたり、収集する情報の内容、情報収集の目的、オプトアウトの方法、第三者提供の有無、RFIDの動作の仕組みなどをFAQとして詳しく公開し、サービスを利用するかどうかの意思決定を利用者に委ねている点がある。RFIDの動作の仕組みなど、なかには専門的で利用者が理解できるかどうかという説明もある。情報の透明性に非常に気を使っていることがわかる」(城田氏)
ビッグデータ活用とプライバシー保護をめぐっては、米国でもたびたび問題になってきた。城田氏は、そのうちの著名なケースとして、顧客の購買履歴の分析で知られる大手スーパーマーケットのTargetが、女子高生に妊婦向けクーポンを送付し、それを知った父親がミネアポリスの店舗に怒鳴りこんだという事例を紹介した。結果として妊娠は事実で、父親はTargetに謝罪することになったものの、購買履歴を分析することで近親者ですら知りえない情報を事業者が把握できてしまうことが議論を呼んだ。
「Targetに欠けていたのは、消費者の気持ちを推し量ることだ。同社は、プライバシー法などコンプライアンスに保守的な企業だったものの、センシティブな情報の取り扱いについて配慮を欠いた。これを受けて同社は、購買履歴に応じて作成しているクーポンや小冊子を工夫した。ただ、ベビー用品とは関係ない商品を混在させるなどの対応であり、これはこれで“微妙”な対応だ。ここで学ぶべきことは、法令遵守は必須要件であって、十分条件ではないということ。顧客の信頼を得るという基本的要件を満足させる必要がある」(城田氏)