GENESIS――兼松エレクトロニクスの挑戦
データの戦略的活用を重要視する企業ほど業績がいい――そんな仮説を検証するのに役に立ちそうな興味深い調査結果がある。ITRが2014年に実施した調査にてデータの戦略的活用の重要性と業績についてクロス集計をかけたところ、業績の好調さとデータの戦略的活用を重要視する割合に関連性が見いだせた。データの戦略的活用が「最重要事項である」または「重要事項の1つである」と回答した割合を見ると、業績が「非常に好調」で87.2%、「やや好調」で82.6%、「やや不調」で60.5%、「非常に不調」で33.3%。
「ニワトリと卵のような関係かもしれませんが」とITRのリサーチ・ディレクタ/シニアアナリストの生熊清司氏は言う。業績が好調だからデータ活用に目が向くのか、データ活用に目が向いているから業績が好調となるのかは定かではない。しかし業績がよい企業ほど戦略的なデータ活用を重要視しているのは確かだ。
兼松エレクトロニクス(以下、KEL)もその一つだ。情報や通信のプラットフォーム構築に強いソリューションプロバイダであり、7年連続VMware Awardを受賞するほどVMware技術に強いのも特徴。最近メインフレームを中心としていたERPシステムを刷新した。同社 執行役員 ビジネス開発本部長 黒澤俊実氏が経緯とポイントを解説した。
黒澤氏は過去のシステムには「アプリケーション高齢化という課題がありました」と話す。メインフレーム自体は徐々に改善が加えられつつも、稼働しているアプリケーションは30年前からそのまま。黒澤氏は「一部アセンブラで書かれているものもあり、ブラックボックス化して保守できず。サブシステムを作成しサイロ化が進んでいました」と述懐する。
システム更改の目的について黒澤氏は「新しいテクノロジーをアーリーアダプター的に採用することでビジネスの最大化を目指しました」と話す。「ここから全て始める」という意味を込めて、プロジェクト名を「起源」や「始まり」という意味を持つ「GENESIS(ジェネシス)」とした。
設計コンセプトは過去のものを「捨てる」、サイロ化したものを「つなぐ」、そして「集約する」。重視したのは「シンプル」で「標準的」であること。「特殊なつくりにしてしまうと自動化できなくなります」と黒澤氏は標準化の重要性を強調した。ただし標準化して集約するのは簡単なことではない。「各システムの接点では頭を抱えました。どこも保守的に考えてしまいがちでしたが、全体を見渡して設計するように心がけました」(黒澤氏)。
加えて監査からの指摘もあり新システムではDCP(緊急時地域活動継続計画)にも入念に検討した。一般的にはDCPのためにDR(ディザスタリカバリ:災害からの復旧)を整備するが、検討した結果、プライマリサイトの可用性に重点を置くことにした。調べてみると東日本大震災時にデータセンターは3cm程度しか揺れなかったほど盤石に作られているとのこと。このデータセンターが倒壊するような災害となれば「われわれもいない」ということで、DRサイトは用意しつつも必要なデータを流すという最低限な範囲にとどめた。つまりプライマリサイトの可用性にコストをかけたほうが有意義だと判断した。
システム全体はVMware ESXiの仮想化をベースにしつつも、データベース環境だけはストレージの理由で物理サーバーとした。RDBMSはOracle Database 12c、管理もOracle Enterprise Manager 12cと最新版で揃えた。最新版なら自動チューニングが有効でアプリケーションを最適化できるメリットがある。なおデータベース環境ではVMAXに加えてオールフラッシュストレージのXtremIOを採用しているのも特徴だ。
一般的にフラッシュの活用分野には仮想化環境、データベース環境、分析環境、VDI(仮想デスクトップインフラ)などがある。今回KELがデータベース環境で採用した理由として、高速なフラッシュを用いることでOracle RAC環境の性能向上やバッチ処理の高速化が見込めること、およびXtremIOならブリックを足すことでスケールアウトが可能となる点を挙げた。
「スケールアウトが可能なフラッシュストレージはあまりありません。XtremIOなら拡張性が担保できます」と黒澤氏は言う。XtremIOはマルチコントローラーであるため、スケールアウトが可能なアーキテクチャとなっている。実際にはブリック単位で追加できる。また一般的なフラッシュ製品ではガベージコレクション処理で性能劣化が生じるが、XtremIOではガベージコレクション処理を必要としないためレイテンシーは常に一定。性能に一貫性があるのも有利なところだ。
黒澤氏は「フラッシュについてはあまり話すことはないのです」と苦笑いする。これはそれだけ設計要素がなくてシンプルだということ。1つの仮想プールを構成すればいいだけ。さらにXtremIOではフラッシュを最適化する新しいデータ保護の仕組みとなるXDPを採用しており、従来のRAID技術の良さを生かしつつ容量効率で上回る優位性もある。
「従来のRAIDならどれにするか、玉をいくつにするか検討する必要がありますが、XtremIOのXDPならその必要がありません」(黒澤氏)
またXtremIOではメモリからフラッシュに書き込むときにデータの重複排除と圧縮を行うのも特徴だ。書き込みそのものを減らすため、フラッシュの摩耗を減らして耐久性を向上させ、書き込み処理の性能向上にも役立つ。
「VMDK(仮想マシンディスク)なら従来比で1割に、データベース環境なら1/3に、ストレージの使用容量を減らせました。フラッシュそのものは高価ですが、XtremIOなら少ない容量ですむというメリットがあります」(黒澤氏)
これまで黒澤氏は各種フラッシュ製品動向を注視し、XtremIOの採用に至ったという。現実的には全てのシステムでフラッシュを採用することは考えられないというが、バックアップ先などで既存のストレージとのすみ分けや連携も考える必要あるという。これに対し、EMCについては、その実績やストレージ製品を幅広く扱っているという点を優位性として評価しているという。
「鬼っ子(※あるいは「孤立」)となるストレージは避けたいと考えました。性能などで優れていても特殊でほかのストレージと連携がうまくいかなくなるのでは困ります。全体のバランスを考えてXtremIOを選択しました」(黒澤氏)
あらためてフラッシュを採用するときのポイントとして黒澤氏は「早いのは当然。何に使うのか、活用の課題と目的を明確にして活用分野を定めておくこと」と指摘した。
XtremIOならデータベース環境に高い性能をもたらす
EMCといえば、2008年3月に業界で初めてエンタープライズストレージ向けにフラッシュドライブ(SSD)を発表するほど、フラッシュの先駆者である。
最初の製品を第一世代とすると、第二世代ではデュアルコントローラー、かつフラッシュとハードディスクハイブリッド型アレイとなり、第三世代はスケールアップ型オールフラッシュアレイとなり、最新製品では第四世代へと発展している。
EMCジャパン システムズエンジニア XtremIO製品担当 水落健一氏はフラッシュメディアの特徴をこう説明する。「フラッシュメディアは磁気ディスクのような可動部がないためこの部分で故障は起きないものの、フラッシュメモリは劣化するという性質があります。そのため書き込みや消去の回数が限られてきます。加えてまた磁気ディスクと比べて価格は高いです」
パフォーマンスについては、フラッシュはストレージに比べて高速かつ高性能であるのは確かではあるものの、コントローラーがボトルネックとなることとガベージコレクションで性能劣化が発生するという課題があった。
EMCが第四世代として出しているオールフラッシュアレイのXtremIOでは、フラッシュメディアの摩耗を減らして単価を低く抑え、かつ性能を安定させる仕組みを実現しこれまでの課題を克服している。技術的にはコントローラーがデュアルからマルチへと増え、ペタバイトクラスの拡張性を持つ。さらに単一ワークロードから複数ワークロードでも利用可能であるとか、レスポンスが一貫しているなど、多岐にわたるアドバンテージがある。高性能と信頼性が重視されるデータベース環境においては、このような仕組みを持っているXtremIOのようなオールフラッシュアレイが最適だろう。