急拡大するERP導入に“動かないコンピュータ”
中堅中小企業におけるERP導入が急激に拡大しているようです。
主要な調査機関の報告によると、ここ2、3年で年商50億円~500億円の企業におけるERP導入は毎年10%以上で成長していて、今後2011年までこの二桁増の傾向は変わらないそうです。欧米の市場普及率7割にはまだ及びませんが、既に普及率は4割を超えたという声も聞かれますので早晩5割を超えるのは確実でしょう。
1992年にSAPジャパンが「SAP R/3」というERPパッケージソフトウェアを日本に持ち込んでから15年程ですが、わずか15年で企業の基幹系システムは汎用機、オフコンの手作りベースから、オープン系のパッケージへと移行したわけです。ERPが一部大手企業だけの製品と呼ばれていたことを思い起こすと隔世の感があります。
しかし、こうしたERP導入活況の裏には“動かないコンピュータ”と呼ばれる失敗事例も数多くあらわれており、ERPにおいてもその傾向は同様です。ERPはパッケージアプリケーションですから、機能面で動作しないということはまず有り得ません。ERPパッケージをサーバーにインストールして、正しくマスタやパラメータを設定すれば動いて当然のシステムなのです。それなのに昔も今もERP導入失敗の話は尽きることがありません。
企業の大小に係らず、業種業態にも関係なく、何故か必ず失敗事例が報告されています。筆者は、ERP導入企業のエンドユーザー経験とERP導入ベンダーのコンサルタントとしての両方の経験がありますが、ERP登場から15年が経った現在でもERP導入し失敗する企業の割合が減っては居ないような気がします。ERP導入に失敗する理由は、実は毎回ほぼ似たような要因から始まっているような気がします。
“ERP導入失敗には決まったパターン、失敗に至る法則があるのではないだろうか?”
失敗に法則があるならば、失敗を反面教師に成功することもできるはずです。良くある失敗事例を幅広く知ってもらうことで、これからERP導入に望むユーザー企業やお客様のERP導入を成功に導くコンサルタントの道標になると思うのです。
ERP導入にまつわる困難や勘所を“失敗の法則”というテーマで幅広く読者の皆様に伝えたいというのがこの連載の狙いです。ERPの導入を検討している。導入途中で迷っている。導入はしてみたけれど成功を実感できないなど、ERPについて悩んだときに、ちょっと息抜きにお読み頂ければと考えております。
ERP導入が失敗する10の理由
勝手ではありますが、ERP導入が上手くいかない10の理由を考えてみました。
- 業務を全く見直さないERPシステム導入
- 経営トップの関心が低いERP導入プロジェクト
- Before / Afterが明確ではないERP導入プロジェクト
- コストパフォーマンス(投資対効果)の評価が曖昧なプロジェクト
- 情報システム部門(ベンダー任せ)で導入を進めるプロジェクト
- システム稼動後の安定運用や変更対応を十分に検討しないプロジェクト
- システムライフサイクル(耐用年数)を考えないERP導入プロジェクト
- 業務の課題とシステムの課題の整理ができていないプロジェクト
- ERPシステム導入後の次のステップ(方向性)が決まっていないプロジェクト
- 予算に余裕が無いERP導入プロジェクト
前半の幾つかは業界で良く言われていることなので「なるほど」といって頂けることと思いますが、後半は「意味がよくわからない」と言われる方が居るのではないでしょうか。実は、前半はお客様の起因する失敗事例の理由に多いものであり、後半はパッケージベンダーや導入ベンダーに起因する失敗事例の理由に多いものです。
初回の今回の“失敗の法則”は、後半の「システム稼動後の安定運用や変更対応を十分に検討しないプロジェクト」の例をご紹介します。