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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

中途採用した技術者が経歴詐称だった

 IT業界は、労働市場の流動性が高いところで、多くの技術者達が、より高い待遇や新たな挑戦の場を求めて転職をします。特に最近は、IoTやビッグデータを駆使したシステムをユーザ企業が主導して作るケースも増え、海外では、新しい技術をいち早くモノにした技術者が、高い待遇で転職することが当たり前になっています。日本も例外ではないでしょう。

中途採用希望者の業務経歴書は信用できるか

 さて、中途採用のときに問題になるのは、採用希望者の持ってきた業務経歴書がどこまで信頼できるのかという点です。より高い待遇を求める技術者達は当然、自分のスキルを高く見せようとします。あからさまな嘘はいけませんが、ある程度は仕方のないことです。なので、雇い入れる側にはそのあたりを上手く見抜いて、採用希望者の等身大の姿を評価しなければなりません。

 しかし実際のところ、こうしたことをきちんと行うのは難しいようで、受入側企業の担当者が経歴書を信じて採用はしたが期待外れだったと嘆く姿も珍しくはないでしょう。今回は、そんな期待外れの採用を巡っての損害賠償訴訟のお話です。

  (東京地方裁判所 平成27年6月2日判決より)

 あるWEBマーケティング企業 (以下 雇用企業 )が、WEBシステム開発の経験のある技術者を募集したところ、一人の外国人技術者が応募してきました。経歴書には、自分がソフトウェア開発とシステム分析のスキル保有者であり、画像処理に関する提案から実装までの経験を有していること、そして、高度情報処理技術者の資格も複数、取得していることが書かれています。また、日本語のスキルも「ビジネスレベル」とあったので、面接をしたところ、日本語のレベルについては、とても「ビジネスレベル」ではないことが分かりました。

 しかし、経歴自体は、非常に魅力的だったので、雇用企業の担当者は、( おそらく通常よりも安い ) 月額40万円での雇用を申し出ました。しかし、外国人技術者は、日本語を含めた自分のスキルを繰り返しアピールし、結局、月額60万円で雇用契約が結ばれました。

 両者に、どんな会話があったのか、実際のところは分からないのですが、ここで、ちょっと覚えておいて頂きたいのは、最初の40万円は、雇用企業側が面接の結果提示した金額、後から加算された20万円は、技術者の方から積極的に申し出たものであるという点です。続きを見てみましょう。

次のページ
経歴書と面接での嘘を理由に解雇できるか

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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