日本人のIDとパスワードに関する意識を変えていく
当該組織では今後こうした課題解決のための活動を思い描いているものの、現段階ではあくまで構想であり、具体的な目標として予告はしていない。とはいえ、西本氏は「日本人のIDとパスワードに関する意識を変えていきたい」と話し、技術開発だけではなく、意識レベルで普及啓発を進めていたいという意向が見られる。
今のところ、当該組織は技術や事例などの情報共有を推進する、政府や各種協会に提案など働きかけ、また技術者育成も視野に入れている。幅広く技術の促進と普及を目指している。
またIDとパスワードの実情を考えると、多くの企業がマイクロソフト製品を使用している。オンプレならActive Directory、クラウドならAzure Active Directory。現在、Azure Active Directoryには9億以上のディレクトリ、600億ものユーザーアカウントがあり、毎日の認証回数は13億回にも上る。またマイクロソフトによるとAzure Active Directoryと連携するSaaSアプリケーションは4000以上あるという。実質的にはIDとパスワードに関してはマイクロソフト製品を使うケースが多いため、日本マイクロソフトが事務局となり参加企業に情報提供をするなどの役割を担う。
現時点では参加企業は8社であるものの、趣旨に賛同してもらえば競合も含めどんな企業からの参加も受け付けるとのこと。ラックの西本氏や日本マイクロソフト 佐藤久氏は「エンドユーザー目線」という言葉を使い、最終的には多くのユーザーがシンプルかつ安全にIDを使えるようにすることを基本的な理念として共有しているように見えた。
まずは8社で発足を発表した段階で、具体的な活動はこれから参加企業で決めていくことになる。今後どのような成果が出るか、業界にどのような影響を与えるかは未知数だ。少なくともID運用の重要性というコンセプトを共有し、シンプルかつ安全な仕組みを実現するための技術的解決を目指し、情報共有や協議を行う場となりそうだ。
近年セキュリティでは組織連携の動きが増えている。サイバー攻撃はかつての愉快犯から組織的なビジネスへと変わり、自社だけで対抗するのは「多勢に無勢」で不利だし、現実的には「無理」である。それで「みんなで手を取り立ち向かおう」という機運が高まっている。実際、海外ではランサムウェアに対抗するためとしてセキュリティベンダーや法執行機関などが手を組んでいる。今後当該組織がどう活動を進めていくかは参加企業で協議するとして、まずは手を取り合うことが第一歩となる。
今回参加企業に名を連ねるマネーフォワードの黒田直樹氏からは「5年目のベンチャーなのに光栄です」と参加を喜ぶ発言があり、ラックの西本氏は「わくわくしながら進めていきたい」とにこやかに話していた。企業規模や守備範囲を超えて連携すれば、多様な背景のメンバーが顔を合わせることになる。今後有効な発想だけではなく、意外な効果も生まれるかもしれない。今はまだスタート地点。これから何が生まれるか期待したい。