ベンダーがインタフェースに重点を置いてこなかったことや、会社全体に合わせて最適化された設計もあって、必ずしもERPのユーザビリティは高いとは言えません。しかし、ちょっとした工夫次第で、ユーザの満足度を高めることができます。
厳しい時にこそ、積極的な攻めの姿勢が必要
先行きが見通しにくい経済環境になってきています。このような厳しいビジネス環境ですから、お客様の判断で商談がいきなり無くなることも珍しくなくなってきました。導入を決めたお客様も、導入範囲や初期投資を最小限に控える傾向にあります。
既に、企業のIT投資も前年対比ベースの予算策定が許される状況ではなくなっています。現行システムの維持運用費用の削減が強く求められるとともに、新規投資は業務遂行に必要不可欠なものに限って認めるという声が多くなってきました。
こうした企業のシステム投資計画を見越して、ITベンダーの大半は来年度の活動方針のキーワードを「コスト削減」にしようと考えています。この方針自体は間違っていないと思いますが、今回のような100年に一度と言われる未曾有の経済危機をコスト削減だけでは生き残れるようには思えません。業務効率を大幅に向上し、高度な情報活用によってムダとブレを減らせる仕組みを導入して、売上を最大化する提案をこれまで以上に積極的に行う必要があるのではないでしょうか。
製造業も流通業も「お客様が買い易い価格」を追求する積極的な企業が登場してきました。厳しいときだからこそ価格を下げて需要を拡大し、攻めの姿勢で不景気を乗り切る戦略をとるのだと思います。
そのためには、これまで以上に変化に対して機敏に反応できる仕組みが必要になります。業務効率を的確に把握して、きめ細かい舵取りを行わなければなりません。単純なコスト削減では、現場が疲弊してモチベーション低下につながりますし、この危機を乗り切ることは難しいのではないでしょうか。

ERPはやっぱり使いづらい!
さて、ERPの話に移りましょう。はじめてERPを導入したお客様が必ず思うことは、『ERPはやっぱり使いづらい!』ということです。
その原因の一つは、システムの最適化の範囲が異なることによります。ERPは全社にまたがって業務を統合するものですから、従来システムのように部門に最適化された仕組みではありません。つまり、自分の業務には必要の無いデータ入力も、他部門が処理するために必要となるのです。
例えば、お客様を管理するための顧客マスタを考えてみても、営業部門の受注活動に必要な情報と、経理部門の請求処理に必要な情報はぴったりとは重なりません。従って、その新規登録や更新変更などは結構大変な作業になります。ERPは、会社全体としてはムダや間違いを省く仕掛けになっているのですが、現場担当者の個々の作業は増えますし、さまざまなデータを細かく入力しなければならないため、大抵の場合は現場の作業効率は低下します。

また、従来のERPはその操作性にも課題がありました。例えば、1つの処理を行うために多くの画面を経る必要がある上、各入力画面が似通っていることもあって間違いが発生しやすいという欠点があります。
間違ったデータを入力してしまった場合は、その修正には大きな手間をかけなければなりません。最悪のパターンだと、反対仕訳伝票を入力しなければならないこともあります。誤入力データを相殺して、再度ゼロから正しいデータを入力し直すというかなり面倒なオペレーションが求められるわけです。「一度ERPに取り込んでしまった誤データや入力間違いをもっと簡単に取消できれば良いのにと」という声を本当に良く聴きます。
あるお客様のケースでは、ERPの受注入力をするために専任担当者を配置して作業効率の向上を図りました。しかし、属人的な対応が標準化や柔軟性を阻害する結果となり、現時点ではこうした担当者を置いたことが効率化やコストダウンのボトルネックとなってしまっています。
事業拡大やビジネス環境の変化に伴って、「コールセンターやアフターサービス、代理店においても柔軟に受注処理を行いたい」というニーズが出てきたのですが、受注入力処理が複雑で面倒なためなかなか実現できないのです。
結局、入力情報をわざわざ紙で出力して、担当者にお願いせざるを得ない状況になっています。コストダウンを狙ったERP導入が、なぜかコストアップを招いてしまうというケースです。
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鍋野 敬一郎(ナベノ ケイイチロウ)
米国の大手総合化学会社デュポンの日本法人に約10年勤務した後、ERP最大手のSAPジャパンへ転職。マーケティング、広報、コンサルタントを経て中堅市場の立ち上げを行う。2005年に独立し、現在はERP研究推進フォーラムで研修講師を務めるなど、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスに従事している。
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