まだまだピンとこない? ESG/SDGs関連
ESG、SDGs…… 正直に言うと、このテーマは筆者にとっては、「ピンとこない」というのが正直なところでした。環境問題や社会的な解決課題が経営テーマになってくるとは知りつつも、情シス部門やIT担当者にとっては、ここ数年はコロナ禍によるリモートワーク対応やセキュリティ対策が喫緊の課題。普段は「コスト削減」が優先される現場の担当者にとっては、ESGやSDGsは、ちょっと「意識が高くて腹落ちしない」テーマだと感じられるのではないでしょうか? 筆者の担当するこの「EnterpriseZine」でも、ESGや環境問題に関するソリューションの紹介記事は、他の企業のDXなどの記事に比べると、ちょっと反応が薄い(PV数的に)というのが正直なところでした。
とはいうものの、この流れは企業のIT部門のテーマとしても、近いうちに確実に来そうな気がします。日々報じられる環境問題への企業の取り組みや、欧米のEVシフト、カーボンニュートラルなどの記事を見ると、経営的なテーマではなく、現場の取組課題として浮上してます。CO2排出量削減やESGの取り組みの「数値化」「可視化」が義務付けられてくると言うのが理由です。
八子知礼氏は近著『DX CX SX』(クロスメディア・パブリッシング)の中で、「今後20年のトレンドを読む上での大前提」として「SDGsとESG」を挙げています。これらは、投資家目線でみた「企業価値のモノサシ」であり、配慮をしなければ事業継続も難しい時代にさしかかっているとしています。DXにとっても密接な関係があると述べ、ESG経営はDX推進にとっての追い風であることを詳しく解説しています。
「ESG経営を実現するためには、現場の様々なオペレーションや環境の状態をすべてデータで可視化する必要があるためです。そのためにサプライチェーン全般にわたるIoT化を推進し、データを可視化した上で、将来にわたって目標値を定めてPDCAを回していくことを、DXへの取り組みで効率的に進めていく必要があるのです」(『DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法』:八子知礼著 クロスメディア・パブリッシング)
ちなみにこの本は、ESGのためのモニタリング/情報開示のためのIoTやDXソリューションの具体事例を紹介していて、IT部門の方にも参考になります。
ESG経営とITを知るためのオススメ記事7選
ここ最近のESG経営やサステナビリティに関する取材記事を紹介します。まず最初に谷川耕一さんの記事。いつもは、データベースやクラウドに関する企業の最新技術を紹介する谷川さんですが、この記事ではOracleやSAP、Amazonなどのメガベンダーが、「SDGs」をエンタープライズITのビジネスとして見据えていること、その背景と戦略をわかりやすく解説してくれています。
ESG経営が単なる努力目標ではなく、ある程度強制力をもったものになると思われます。企業価値を左右するものである以上、「ESG経営によって企業価値を向上させる」ことがテーマとなります。より、直截的にいうならば、「投資家を納得させ、株価をあげるためにも、ESGへの取り組みが必要」だということです。これについては、以下の2つの記事があります。
早稲田大学 客員教授 柳良平氏はこの記事の公開時にはエーザイCFOでしたが現在は退任され、同社のアドバイザーかつアビームコンサルティングのエグゼクティブアドバイザーに就任されています。「日本企業がESGの取り組みによる非財務の価値実証することができれば、企業価値は増大する」と主張されています。柳教授の提唱される「柳モデル」は会計モデルとして世界的にも注目されており、この記事ではその概念やフレームワークをくわしく紹介しています。
同じく、ESG可視化と企業価値というテーマでは、アクセンチュアが発表したAIプラットフォームの記事があります。
これは、クラウド型のAIサービスで経営の企業価値への貢献度を測定するというもの。アクセンチュアの持つ大量データを基に、ESG施策の企業価値の貢献度合いを可視化するとともに、目標企業価値に向けてのとるべき施策のシミュレーションも可能だといいます。
アクセンチュアの保科学世氏によると、「ESG施策が企業価値に結びつくことを確信したので、ビジネス化に踏み切った」のだそうです。
各大手コンサルティングファームが独自の調査や分析のモデルやフレームワークを発表しています。アクセンチュアのこのサービスのモデルは、九州大学との共同研究によるもの。一方、アビームコンサルティングは、前述の柳教授の「柳モデル」を取り入れた分析を行っています。
ERPやサプライチェーン・マネジメントでの導入
大手ITのソリューションプロバイダーやSIerは、これまで提供してきたERPやサプライチェーンマネジメント(SCM)との連携によって、ESG経営のためのデータの収集と可視化のサービスの提供を開始しています。
世界的な機関や日本の政府のカーボンニュートラルには、数値的な目標が掲げられており、特に大企業の場合、その数値にむけたGHG(温室効果ガス)の排出削減が厳しく要請されることになります。その影響を大きく被るのが、大手製造業です。自動車産業などではEV化の流れもあって、製造システムやサプライチェーンマネジメントの改革が行われようとしてます。日立ソリューションズは、SCMのソリューションによって、製品や部品工程単位で、GHG排出量をレポートする事業を展開しています。
また、前述したERPベンダーのSAPは、財務情報と非財務情報を統合して開示するため経営層向けのダッシュボードや実務者向けの製品を提供しています。
こうした大手ITベンダーに加え、日本のスタートアップからも注目すべきサービスが生まれています。サステナクラフトは、企業が購入する「森林由来のカーボンクレジット」の評価プラットフォームを提供するベンチャー。カーボンクレジットは、企業が自社が削減できない温室効果ガスの代替手段として購入する「埋め合わせ」手段ともいえ、その取引市場で、過大評価された「ジャンク・カーボンクレジット」が問題になっています。同社は独自の衛星画像や推論技術により、そのクレジットを適正に評価するという事業を提供しています。優れた若手によるデータサイエンティスト集団として、市場からも注目されています。
また環境重視の経営については提唱する団体や組織の立場によっても、少しずつ違いがあるように思えます。SDGsは国連などによる「目標」、ESGは企業や組織による「手段」とされ、また経済産業省の提唱する「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」は、企業が持続可能性を重視した経営へ転換するための長期的な戦略として考えられているようです。
いずれにせよ、今はまだ少し遠い感のあるサステナビリティ関連ですが、企業のIT部門や、提案するITビジネスの方々にとっても重要テーマとなりそうです。今後の記事にもご注目ください。